オカメさん

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 そのときだった。 ダーーーンッ  それまで静かだった演奏が、重く低い打撃音と共に激しい音楽へと変化した。  ボーっとしてただけに、その驚きは半端なかった。 (な、なにこれ…)  そして同時に、衝撃を受けた。  鍵盤の上を踊り、強く何かを訴えてくる音の粒たち。  この胸の高鳴りは、急な音に驚いたからだけではない。 (違う世界にいるような――)  もうそこはコンサート会場などではなかった。  空が、緑が、湖が、蝶が、小鳥が、私には見えたのだ。 (こんなすごいものが、この世界にあったんだ!)  この感動を、誰かに伝えたい。  こんなに心を奪われたのは、生まれてはじめてだった。
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