オカメさん

7/12
前へ
/12ページ
次へ
 暖かな午後のひととき。  私のぎこちない演奏に、オカメさんが歌ってくれる。    あっという間に時間は過ぎていった。  一方、学校の方は相変わらずだった。 「音楽室の掃除、後よろしくねー」  五人でするべき掃除を、こうやって私一人に押し付けられるのも、いつものこと。何も思わない。  ――いや、今は違う。 「でっかいピアノ…」  私は音楽室の大きなピアノに、興味津々だった。  恐る恐る触れてみる。家の電子ピアノとは全く違う感触だった。  これで弾いたら、一体どんな音が出るんだろう?  湧いてくる好奇心が、どうしても収まらない。 「ちょっとだけなら…」  ドキドキしながら椅子に座り、軽く鍵盤を弾いた。 ポーーン (こ、これは!)  なんていい響きなんだろう。  今が掃除時間だということなど忘れて、私は一曲丸々弾いてしまった。  ――廊下でクラスメイトの一人が聴いていたことも気づかずに。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加