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(1)
夜明け前の砂漠、空は藍色。
一台のトレーラーが、疾走する。
エンジン音を騒々しく轟かせて、高速回転するタイヤが砂塵を巻き上げている。
「っしゃあ、間違いなく一番乗りだ!」
トレーラーのアクセルを目一杯に踏み付ける少年は、そう叫び笑った。
少年の名は”エンキ”。
東洋風の顔立ちに、逆立ち気味な髪、切れ長の目。細身で小さい体に、身の丈に合わないオレンジのツナギを着ているせいで、どこかだらしない印象を受ける。
歳は十七、親の顔は知らない。
どこぞの男に買われた娼婦が、ヘマをして出来た子だ。へその緒を切られるのと同時に縁も切られた。けれど、ご法度無しのこの交易都市”エイリス”ではありふれている。そして、変な爺に拾われて、七歳でほっぽり出される……というのがこの話のお決まり。エンキも例に漏れずそう。
「まだ他の屑鉄屋は誰も来てねえ」
その爺にほっぽり出されてから、エンキが飯を食うために選んだ方法が屑鉄拾いだった。
屑鉄拾いは当てればデカい。それが地上に生きる人々の共通認識。
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