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『SMC装置』は、例えばうつ病のような精神疾患に対しても効果を発揮するらしい。
過去の記憶を、より色濃く呼び醒ますことで、脳を活性化させる効果を得られるからだそうだ。
うつ状態というのは、結局のところは脳の疾患だ。人を沈んだ気持ちにさせるのは、分泌される脳内物質が原因なのである。
それが慢性化することで、病状は悪化し、負のループに入ってしまう。
そこへ懐かしかったり美しかったりする記憶を与えてやるとする。それは、例え過去の記憶であったとしても、脳にとってはこの上ない新たな刺激となるのだ。
『SMC装置』が呼び出す記憶は、まさに患者にとっての夢そのものだった。
『SMC装置』による治療は、例に漏れなく良一郎にとっても有意義なものだった。
良一郎は、夢の中で陽香と会うことを楽しんでいた。松永にお願いして、まずは陽香の記憶を取り戻すことに注力した。
からからと笑う陽香の姿は、良一郎にとっての支えだった。
何もない砂漠に咲く、たった一輪の花だった。
大切な陽香との思い出は、どんどんと蓄積されていった。正確には、過去に陽香と過ごした記憶が蘇っているのだ。
ある種のノスタルジーを感じさせた。失われたものを取り戻したいという欲求は、日々増していった。
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