なくした過去、二度目は夢で

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 陽香という存在に対する興味も、同じように増幅していた。  ふと思い立って、自分のスマートフォンのアドレス帳を調べてみたが、残念ながら陽香の連絡先は見つからなかった。  それはそれでもよかった。現実の陽香は、良一郎と同じように歳を取っている。  その陽香が、夢の中で会える陽香のままだとは限らないからだ。恥ずかしながら、記憶の中にいる彼女のままがよかった。  ただ、『SMC装置』には、実は緒問題も残っている。  夢の中で能動的に活動できるがゆえ、本来の歴史――つまり記憶――にはなかった行動、現実ではなかったはずの行動を、患者は取ることができるのだ。  患者が、現実世界での情報や知識を持った状態で夢の世界へ入ることも、それを引き起こす原因の一端であるらしい。  現実と異なる行動をとった夢の記憶が、脳に残るということは、記憶の齟齬を生む結果に繋がる。現状の技術では、このことは避けようがないらしい。  これから良一郎の中に残る陽香との記憶は、過去のそれと微妙に異なってしまうのは、致し方ないことなのだ。  そしてもうひとつ――。  夢の中にいる段階では、患者はそれが夢であることを認識できない。  それが一番もどかしかった。  目覚めた瞬間に、それまで夢を見ていたこと知る。そしてその内容が記憶に残る。これは絶対の法則だった。  もしも夢の中で現実を認知できたなら、どれほど有意義だろう。しかしながら現在の技術では、まだその段階には至っていない。
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