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治療は続いた。
陽香の夢ばかり見ていたので、記憶の想起自体は進展がなかった。楽しくはあったが、治療自体は停滞していた。
そうして一週間が経過した。
その日、母親がやってきた。見舞いはこれで四度目だった。
夢よりもずいぶん歳を取っていたが、母親であることは初見でわかった。
ただ、母親と過ごした記憶も失われている。この女の人が自分の母親であると、心の底から認めるには、まだ少し時間かかかりそうだった。
その母親に陽香の話をしようとして一度躊躇した。女の子の話を母親にすることに抵抗があった。要するに恥ずかしかった。
けれどそれでは治療が進まない。
治療のおかげで、姫川陽香という幼馴染みを思い出したと正直に告げた。
陽香の名を聞いて、母親は初め、怪訝な表情をした。その表情がだんだんと険しくなっていった。
「ヒメカワハルカさん……って……あのヒメカワさんじゃあ――」
はっとしたように母親は呟いた。
そのようすから、陽香もしくは姫川家を少なからず知っているようだった。
幼馴染みということは、家族ぐるみで付き合いがあってもおかしくはない。初めから頼るべきは母親だったと、良一郎はそんなことを思った。
だが――事態は思わぬ方向に進んだ。そこから聞かされた真実は、あまりにも衝撃的だった。
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