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―――――
松永の部屋を訪れた。
「おや、守崎さん。なにかね?」
相変わらず松永はのんびりといった。彼の前の回転椅子に、良一郎は腰を下ろした。
先日母親から聞いた事実は、結果的に良一郎の記憶の再構築を加速させた。ほどなくして、姫川陽香の記憶はほぼすべて想起されたといってよかった。
夢の中では変わらず陽香と会い続けた。記憶の中の物語が進んでいった。夢の世界でも、着実に二人の時は流れていた。
夢の中の良一郎と陽香は、中学一年生になっていた。中学生になって、初めての夏を迎えようとしていた――。
そして――良一郎は、陽香の夢を見ることをやめた。
その後『SMC装置』での治療は、別の記憶に焦点を移して行うようになった。
松永と弘美は当然理由を尋ねてきた。
陽香意外の記憶を取り戻すことは治療的にも検証にもベストであるが、突然陽香の夢を見なくなったことで、少なからず疑問を感じているようだった。
今日まで、彼らに明確な回答をしていなかった。
そうしてきたのは、あることへの確信が持てなかったからだ。その瞬間が訪れた時、夢の世界の自分がどう行動を起こすのか、どのような結果になるのか、まったくの未知数だった。
同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたかった。仮にそれが、夢の中での出来事だったとしても。
「実はあることをずっと恐れていました。そこを通りすぎるのが怖くて――でも決めました。今、行かないと、たぶん後悔する」
松永が、緩んだ表情を少し引き締めた。
「『SMC装置』を使わせてください。陽香の夢の続きを見させてください――」
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