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―――
姫川家のドアを乱暴に開け放った良一郎は、そのまま彼女の部屋につながる階段へ駆けた。
後ろからまるで罵声のようなたくさんの大声がしていたが、その言葉を聞く余裕はなかった。
視界が霞んで狭まる中、階段をひとつ飛ばしで登った。
肌がちりちりと今にも焼けそうなくらいに熱かった。それは猛暑日となった夏の熱気のせいではなかった。
登りきったすぐ隣が陽香の部屋だ。開け放たれた室内に、躊躇もなく飛び込んだ。
灰色の煙が充満していた。天井に向かってもくもくと立ち上っていた。
目をやられないように、瞼を半分閉じて室内を見渡した。すぐに陽香を見つけた。
彼女はベッドの上に横たわっていた。気絶しているか、もしくは眠っているように見えた。
「陽香っ。起きろォ」
スライディングをする勢いで、ベッドの側に寄った。
彼女の身体を激しく揺らすと、陽香はすぐに目を開けた。どうやら眠っていただけらしかった。
「陽香――よかった。間に合った――」
陽香の身体を抱えた。そのままベランダへの扉を蹴り飛ばした。
鈍い音がして、古い引き戸は燦から外れた。もう一度蹴ると、外側に倒れた。
陽香を抱えたまま外に飛び出した。その方向は家の裏側で、人の姿はなかった。下を覗いてみる。それほど高さは感じなかった。
陽香を座らせて部屋へ戻った。ベッドの上の布団、まくら、クッション、ぬいぐるみ――それらすべてベランダに放り出した。
一番大きな布団で全部を包み込んで、大きなクッションにした。地面に投げつけた。
すべて身体が咄嗟に動いた結果の行動だった。
陽香と共に、良一郎は手摺を蹴った――。
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