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火の海に飛び込むことに、なんの躊躇も覚えなかったのは不思議だった。危険かどうかを判断する間もなく、ただ陽香を助けたいという意志だけで動いていた。
絶望的な結果ではなく、陽香の屈託のない笑顔だけが、脳裏に浮かんでいたのだ。
そして彼女は生きた姿で目の前にいる。
「りょうちゃんってば、なんで泣いてるのよ……」
「そんなの……陽香を……助けられたからに決まってんだろ」
二人は地面に寝そべっていた。
飛び降りた後はどうなったのかよくわかなかった。身体が痛くて動けそうにない。
「男の子なのに。……もぉ――」
ぼんやりとした表情のままで、隣の陽香は口元に微笑みを浮かべた。まるで天使のようだった。
「りょうちゃん。助けてくれてありがとう。二度も、あたしを助けに来てくれて、ありがとう」
「二度……も?」
どういうことだろう?
一度目はいつのことだろう?
これまでに陽香を助けたような記憶はなかった。
「りょうちゃんのいってたとおりだね」
「……ん?」
「りょうちゃん、りっぱな消防士さんだよ――」
「はるかっ」
その時どこかから、大人の声で彼女の名が呼ばれた。大勢の人間が二人に近づく気配がした。
急激に、世界が遠のく感覚があった。
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