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その理由を、良一郎なりに解釈してみた。
良一郎の脳の引き出しのどこかに、『陽香を助けられなかった』という記憶は残っている。
『SMC装置』を介して、夢の陽香を生みだしたのは、それを知る良一郎の脳であり、記憶だ。
つまりあの夢の陽香でさえも、元を正せば、良一郎が作り出した幻想に他ならない。
良一郎の、過去への自責の念が、陽香にあの言葉をいわせた――。
要するに、救われたかったのだろう。陽香を『亡くした過去』から。
それならば、まあ、辻褄は合う。自分本意で、あまり嬉しくはない解釈だったが。
それでもよかった。いいことにした。
例え幻想の世界だったとしても、陽香の命を救うことができたから――。
まだまだ治療は続く。そして職場にも復帰しなければならない。
そのための大きなきっかけを、陽香はくれたのだ。
「その忘れ物って、なんなの?」
いつかと同じ、噂話を聞き出す時ような声音で、弘美が訊いてきた。
「言葉にするのは難しいけど……うーん――」
良一郎は、少しばかり熱っぽい台詞を思いついた。
夢の中だけではなく、今度は現実で、立派な消防士になるのだ。
「これから消防士として戦っていくための、大きな力と勇気、かな……」
この言葉が、夢の中――記憶の中の陽香にも届くといいな、と、良一郎は思った。
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