0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
柔らかく包み込むような夏の匂いがした。
目を開けると、そこには青々とした草木繁る風景が広がっていた。絵画のような田園風景。空の青と、草木の青と、見事なコントラストで描かれている。
そこには明るく暖かい日差しが降り注いでいた。頭の上のほうで、蝉の鳴き声が聞こえていた。
「りょうちゃん――」
なぜだろうか、この風景、この匂い――とても懐かしい気持ちになっていた。ずっと昔に、どこかに忘れてきてしまったような気持ちに――。
「ねえ、りょうちゃんってば」
背後から、怒ったような声が聞こえて、はっとした。
女の子の声が、誰かを呼んでいるのだった。それは自分に向けられているようだった。
思わず気になって、振り返った。
おかっぱを少し長くしたような髪型の、かわいい女の子が、目の前で頬を膨らませていた。小学校高学年くらい――まだ幼さの残る女の子だった。
水色のワンピース姿で、小さな麦わら帽子を被っていた。
「えっと、君はどこの子?」
訊くと女の子の表情は、さらに不快感を増した。
「……どこの子ってなに? なんの冗談? 同じクラスのくせに」
彼女は眉を曲げた。
「えっ、あっ、ほんとだ……」
自分の掌を見てわかった。とても小さかった。
自分は、子供なのだ。いやそもそも、ではなぜ大人だと思い込んでいたのだろう?
最初のコメントを投稿しよう!