なくした過去、二度目は夢で

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「やあやあ、すまないね」  その時、近々還暦という風貌の松永が、ゆったりした足取りで帰ってきた。頭はすでに白くなっている。  こんな初老の医師が最先端医療を扱っていて大丈夫なのだろうかと、ふと思ってしまう。  自分の椅子に腰を落ち着けた松永は、さっそく話し始めた。研究にかける情熱を感じた。 「今日も、守崎さんの、情報をおさらいするよ? 覚えてることとか、間違いがあったら、いってね?」  時おり言葉を切りながら、松永は告げた。 「わかりました」 「守崎良一郎。一九九五年十月五日生まれ。二十一才。A型――」  基本的な情報が次々と開示される。身元についてはそれなりに理解したつもりだ。  さらに略歴に続く。  高校、中学の記憶は、断片的ではあるが何度か夢の中で目にしていた。  そして小学校については、姫川陽香の記憶と共に、だんだん蘇っている段階だった。 「専門学校卒業後、消防士として働く――」  そこで良一郎は思わず口を割った。 「俺が消防士だったなんて、まだ実感がないんですけどね」  目覚めて以来、これに一番驚かされたかもしれない。
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