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夏の光にキラキラ輝く水面が綺麗だった。
「おとなになったら何になりたいかって宿題、りょうちゃんなんて書くのぉ?」
灰色の石でできた橋の上から、流れる小川を二人で見下ろしていた。
「なんだろ。消防士……かな」
ふと、なぜか頭に浮かんだ職業を口にした。光沢のある銀色の、合羽のような制服が脳裏に見えた。
夏の匂いのする微風が吹いたと思ったら、駆け足で通りすぎていった。
「えっ、りょうちゃん消防士になるの?」
陽香がなびく髪の毛を押さえながらいった。寝耳に水、というような、素頓狂な声だった。
「だってこの間まで、ゼッタイ漫画家になる――っていってたじゃん。……急にどうしたの?」
「えっ? うーん、そうだったっけ?」
「そうだよ。なのにどうして?」
「わかんないけど、なんとなく……」
「ふーん……」
他愛ない話をしながら、陽香と連れたって、何もない田舎の道を散歩した。
明るく暖かい日差しが降り注いでいた。蝉の鳴き声が聞こえていた。農作業に精を出すおじいさんに挨拶をした。
テレビの話、学校の話、陽香が最近料理をした話――。
どれくらいの時間が過ぎたのか、話している時はまったくわからなかったし、考えてもいなかった。
やがて、視界を光が満たす瞬間がやってきた。
そして良一郎は、幻想の世界を飛び出した。
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