なくした過去、二度目は夢で

9/17
前へ
/17ページ
次へ
――――  睡眠時記憶補正装置(Sleeping Memory Corrected) ――略称『SMC装置』(または『SMC治療』とも)――は、失われた記憶を再構築する手段として、政府主導のもと極秘に研究開発された。  患者はヘッドギアのような装置を頭に被り、睡眠に入る。するとすぐに、強制的に夢の世界へと導かれることとなる。  その夢の中では、患者は比較的現実世界に近い状態で、しかも能動的に、意識的に行動することができる。  つまり、無作為かつ受動的でしかなかった、『夢を見る』という状況に、ある程度自分の意思を反映させることが可能となるのだ。  そして夢の内容は、患者の脳内に残された記憶を元に形成される。自分の記憶に存在する体験を、もう一度夢として経験するというわけだ。  それにより、その記憶はより濃く、再び脳細胞に蓄積することとなる。  記憶とは、タンスの衣類に例えることができる。たとえそこに存在していても、取り出さなければ記憶は意味を持たない。いや意味を、存在価値を失ってしまうのだ。しかし、だからといって消え去ってしまうわけではない。  逆にいえば、何かのきっかけで取り出すことによって、その存在を再認識することもできる。また他の記憶との関連性によって、不意に想起されるケースもある。  そういった性質を最大限に発揮させたのが、この『SMC装置』、『SMC治療』というわけだ。  喪失したと思われた記憶は、必ず脳内のどこかに保存されている――そのことを前提条件として、『SMC装置』は開発された。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加