38人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・・大地」
「ん?」
「なんで怒んないワケ?」
「え?」
「一年を無駄にしたんだぞ」
自分のせいで。
そういうと、瀧川は驚いたように眼を見開いた。
だって、そういうことなんだ。
本当はずっと、自分は瀧川のことが好きで。
心の奥ではそれに気づいていたくせに、受け入れなかっただけだ。
そのおかげで、瀧川の一年を無駄にした。
当然は必然じゃない。
燈路にいわれなければ、自分はたぶん一生、なにも気づかないままだった。
なにも受け入れることができないまま、瀧川を拒絶し続けたはずだ。
離れることが当然だと、思ったままだったはずだ。
瀧川は一瞬考えるように首を傾げるが、すぐに、ゆっくりと微笑んだ。
「いや、無駄じゃねえよ」
はっきりといわれた言葉。
仁が戸惑い気味に眉を寄せると、瀧川は小さく苦笑を洩らした。
「無駄なんかじゃねえよ。きっと、俺もおまえも考える時間ってのが必要だったんだと思うんだ。お互いな。 俺はわかっていたとはいっても、正直自信があったわけでもねえし、自分の気持ちにさえ、本当は確信がもててたわけじゃねえんだ」
「え?」
「好きなんだろうとは思っていたけどな。正直若気の至りかと思ってもいた」
そういって、瀧川は小さく肩を竦めた。
「けど、おまえが離れていって、マジで気づいたよ。それからは結構必死だったんだぜ? 寄ってくる女みんなはべらせて、おまえが戻ってくるよう仕向けたり・・・・」
「おいおい、おまえの女あそびは俺の嫉妬を煽るためだったのか?」
「当然だろ。あんなの暇つぶしにもなんねえよ。うぜえだけ」
「酷ェ男」
「もとはといえば、おまえが鈍感なのが悪いんだよ」
またその話か。
うんざりしたように顔を顰めた仁を見て、瀧川は愉快そうに笑った。
「ま、いいだろ。もうその必要もねえしな」
「え?」
瀧川の長い指が、仁の前髪にさらりと触れた。
視界が広げられ、少しだけ高い位置にある瀧川の顔が、はっきりと見えた。
「俺の隣にいるのはおまえだけでいいよ」
ひさしぶりに見た、瀧川のうれしそうな笑顔に、心臓が大きく音をたてた。
最初のコメントを投稿しよう!