naturalism

17/19
前へ
/19ページ
次へ
 一年ぶりに、一日を一緒に過ごした。  朝は一緒に登校して、休憩時間ごとにどちらかの教室に駆け込み、昼は一緒にランチをとって、帰りは一緒に帰宅する。  そして、日中人気のない瀧川の家に上がりこみ、夜まで同じときを過ごす。  当たり前の毎日。  当然だと思っていた日々。  それが、いまは、少しだけ、意味が違う。  自分の気持ちの変化なのだろうか。  少しの緊張感と、はじめて感じる、胸のあたたかさ。  いままで、充分すぎるほど側にいたと思っていた瀧川の存在が、さらに近く感じる。  なんだか、不思議な感覚だと思う。 「どうした?」  ベッドに寄りかかり、ぼんやりと考え込んでいた仁を見て、隣に座っている瀧川が小さく首を傾げた。 「いや・・・・べつに」 「なんだよ。気になるじゃん」 「気にすることじゃねえよ」 「気にするだろ。いえよ」  しつこい追求に、仁は小さく息を吐いて、天井を見つめた。 「・・・・ちょっと、後悔した」 「なにに?」 「なんで、一年間も離れていたのかな、って」 「・・・・」 「勿体ないことしたなって、思って」  ぽつぽつと呟かれる言葉に、一瞬眼を丸くした瀧川が、すぐに笑みを零した。 「随分カワイイこというね、おまえ」  うれしそうに顔を綻ばせながら、瀧川がじりじりと距離を縮めてくる。  仁の肩に腕を回して、軽く力を込めた。 「理由は簡単だぜ」 「あ?」 「おまえが鈍感だからだ」 「・・・・」  うんざりした顔で睨みつけると、瀧川は愉快そうに笑った。 「まあ、いいじゃねえか。そのおかげで、またこうやってそばにいれるわけだし」 「おまえね、もしかしたら一生気づかなかったのかもしれなかったんだぞ。随分と呑気だな」 「それなら俺の甲斐性がないってだけの話だ。しかたねえ」  いともあっさりといい放つ瀧川に、仁は呆れたようにため息を吐いた。  長い前髪が、視界に被さる。  隙間から見えた瀧川は、過去の記憶にはないくらい甘い表情を浮かべていた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加