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「瀧川のヤツ、またべつのオンナ連れてたぜ」
何気なく呟かれた言葉に、漫画に集中していた仁は静かに眼を上げた。
読み終わったらしい本を机の上に置き、燈路は呆れた顔をしながらも小さく苦笑を洩らした。
「毎度毎度よく飽きないよな。今年に入って何人目?ひとりに絞れねぇのかね?」
「・・・・さあ」
くだらないとばかりに、再び視線を本に落とすと、今度はクスクスという微かな笑い声が響いた。
いったいなんなんだ、と、おもわず眉を顰めると、向かいに座っていた燈路が、少しこちらに身を乗りだしてくる。
「どうでもいいような顔しているな、仁」
数十センチというところまで迫った燈路の顔は、嫌味なくらい不敵な笑みを浮かべている。
「トージ・・・・おまえは随分とたのしそうだな」
ため息がてらにいい放った言葉に、燈路は小さく吹き出した。
バカらしい、と、間近に迫った燈路の顔を押し退け、読みかけの漫画に視線を落とした。
「本当にどうでもいいワケ?」
「・・・・なにが?」
嫌な笑みを浮かべながら燈路はじわじわと距離を縮めてくる。
「おまえらあんなに仲よかったクセに、なんだってそんなにお互い無関心になったんだよ?」
やっぱりどこかたのしげな口調の燈路のセリフに、仁はあからさまに嫌そうに顔を歪め、読む気の失せた漫画を机の上に放り投げた。
「・・・・べつに普通だろ」
「いや、違うね」
すかさず返された言葉におもわず顔を顰めると、燈路は愉快そうに口元を歪めた。
「全然普通じゃねぇ。一年位前からずっとこの調子じゃねーか。瀧川はもともとオンナが寄ってくるタイプではあったけど、 最近はさらに酷くなってるな。くるもの拒まず、ってもっぱらの噂だぜ?」
「知るかよ、そんなの」
「なにがあった?」
「なにがって?」
「なにかあったって思うだろ、普通」
そういわれて、仁は大きなため息を吐いて、面倒くさそうに口を開いた。
「なにもねぇよ」
「嘘つけ」
「ホント」
「嘘」
「・・・・」
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