38人が本棚に入れています
本棚に追加
キリがない。
いい加減にしてくれ、と、燈路の視線から顔を背ける。
そんな仁の小さな仕草にも、燈路はたのしそうにクスリと笑った。
燈路とは中学の頃からの友人で、無論、自分と幼なじみの瀧川ともつき合いはある。
いまでも友だち関係を続けているかどうかは、自分でさえ知らない。
知る必要はないと思う。
瀧川に関係する情報は、自分にとってどうでもいいことだ。
一年ほど前、瀧川との仲をすっぱりと切ったときも、燈路はなにもいわず自分の側にいた。
「なんで、いまさらなんだ?」
「なにが?」
意味がわからないとばかりに、燈路は小さく首を傾げた。
「瀧川のこと」
「あ?」
「疑問を抱くには、遅すぎだろ」
心底呆れ返った自分の言葉に、燈路はおかしそうに肩を震わせた。
ゆるいパーマのかかった茶色い髪が、微かに揺れる。
それをぼんやりと見つめていた自分に、燈路はゆっくりと視線を向けた。
「いまさらだから」
「え?」
「いまさらだから、もう時効じゃないかと思って」
にこりと笑った燈路の笑顔に邪気はないらしい。
呆れてぽかんと口を開けた自分を見て、燈路はやっぱり愉快そうにケラケラと笑った。
「な?一年も放っといてやったんだ。もういいだろ?」
「・・・・」
「なにがあった?」
たのしそうな雰囲気とは裏腹に、少し真剣さを帯びた燈路の眼。
その視線から逃れるように、仁はゆっくりと眼を伏せる。
瞼にかかる前髪をかきあげながら、小さく息を吐いた。
「・・・・残念ながら、本当になにもない」
最初のコメントを投稿しよう!