naturalism

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 キリがない。  いい加減にしてくれ、と、燈路の視線から顔を背ける。  そんな仁の小さな仕草にも、燈路はたのしそうにクスリと笑った。  燈路とは中学の頃からの友人で、無論、自分と幼なじみの瀧川ともつき合いはある。  いまでも友だち関係を続けているかどうかは、自分でさえ知らない。  知る必要はないと思う。  瀧川に関係する情報は、自分にとってどうでもいいことだ。  一年ほど前、瀧川との仲をすっぱりと切ったときも、燈路はなにもいわず自分の側にいた。 「なんで、いまさらなんだ?」 「なにが?」  意味がわからないとばかりに、燈路は小さく首を傾げた。 「瀧川のこと」 「あ?」 「疑問を抱くには、遅すぎだろ」  心底呆れ返った自分の言葉に、燈路はおかしそうに肩を震わせた。  ゆるいパーマのかかった茶色い髪が、微かに揺れる。  それをぼんやりと見つめていた自分に、燈路はゆっくりと視線を向けた。 「いまさらだから」 「え?」 「いまさらだから、もう時効じゃないかと思って」  にこりと笑った燈路の笑顔に邪気はないらしい。  呆れてぽかんと口を開けた自分を見て、燈路はやっぱり愉快そうにケラケラと笑った。 「な?一年も放っといてやったんだ。もういいだろ?」 「・・・・」 「なにがあった?」  たのしそうな雰囲気とは裏腹に、少し真剣さを帯びた燈路の眼。  その視線から逃れるように、仁はゆっくりと眼を伏せる。  瞼にかかる前髪をかきあげながら、小さく息を吐いた。 「・・・・残念ながら、本当になにもない」
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