naturalism

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 はじまりは十年前に遡る。  もとの住人が売りに出した隣の空き家に、瀧川一家が越してきた。  よくある話だ。  同い年だった自分たちが仲よくなるのも、当然のこと。  学校も当然ながら同じで、隣人なだけに一緒に登校するのも、当然のこと。  クラスも一緒で、離れる理由もないから、常にツルむようになるのも当然のこと。  いつでも、どんなときでも、横を見れば瀧川の顔があった。  それが、当然だった。  中学にあがって、燈路がその中に加わることになっても、すべての当然は、当然のままだった。  そりゃそうだ。  いままでの当然をひっくり返す理由なんてなかったから。  高校も、当然ながら同じ学校を選んだ。  相談したわけでもなく、一緒の学校にしようと、約束したわけでもない。  それでも、同じ学校にいくのが当然だと思っていた。  約束なんて、必要なかった。  頭で考えるより先に、身体が瀧川を探した。  瀧川の隣にいることは、極自然なことで、それが当然だったから。  同じように、瀧川も、本能のまま自分を探し出す。  すべてを共有して、すべてを分かち合うのが、当然だった。  それが当然だと思っていた。  すべてが当然だと思っていた、一年前。  自分の身体が、はじめて瀧川の隣に立つことを拒んだ。  理由はわからない。  わからないけど、身体が、本能のままに、瀧川の存在を、拒んだ。  しかも意外とあっさり、それは了承された。  なにひとつ、文句すらいわないで、瀧川はそれを受け入れた。  理由はたぶん、瀧川も同じだったから。  瀧川も、自分の隣に立つことを、拒んだ。  本能のままに、自分が瀧川の側を離れたように。  瀧川も、本能のままに、自分の側を離れた。  ただ、それだけだ。  そうなることが当然だったとばかりに、自分たちはお互いの存在を拒絶した。  理由なんてない。  それが、当然だっただけだ。
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