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「すべての当然を必然だとは思うな」
燈路がいった。
「誰かが意図しない当然なんて、たぶん、当然だと思う中の数パーセントにも満たない」
「おまえが瀧川の側にいるのが当然だと思っていたように、瀧川もおまえの側にいるのが当然だと思っていた。 けどそれは、当然だと思うからこそ、おまえと瀧川が意識してつくりだした当然でしかない」
「無意識の中でそういう当然をつくりだしていたとしたら、 それはおまえらの心の中にある願望だ」
そういいながら、燈路はやっぱり愉快そうに口元を吊り上げた。
「いまの現状は、おまえらが当然を当然と思わなくなったいい証拠だよ。 すべてが必然じゃないってことくらい、もうわかっただろう? 側にいることが当然じゃないんなら、離れることも当然じゃない。 まだそれが当然だと思うなら、それはおまえらが自らの中で勝手につくりだした、ただの妄想でしか過ぎない」
燈路が手を伸ばし、仁の長い前髪を指でなぞった。
はっきりと見えた燈路の顔は、うっすらとした笑みを浮かべている。
その茶色の瞳が、仁の黒い瞳を、確実に射抜いた。
「当然なんかじゃない。すべて、必然なんかじゃない。 おまえも瀧川も、お互いの側にいたいと願っただけだ」
頭の中で、なにかが弾けた。
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