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燈路が薄っすらとした笑みを浮かべていった。
『臆病者だな』
どこが?
意味がわからない、と、眉を寄せた自分を見て、燈路は小さく笑った。
『そーゆーところが、だよ』
紙飛行機を作った。
遠くまで飛ぶかどうかなんて、どうでもいい。
ただ、この数十センチの隙間分だけ、ちゃんと飛んでくれれば、それでいい。
燈路がいうように、すべての当然が当然じゃないんだとしたら。
いままで当然だと思ってきたことは、すべて、当然じゃなかった。
つまり、当然だと思い込んでいたことこそ、間違いだった。
当たり前のように側にいて、当たり前のようにすべてを共存する。
偶然でも、必然でもない。
自分が、それを願っただけだ。
だとしたら、離れることも、自分が願ったのだろうか。
離れたいと思った?
瀧川から?
いや、違う。
きっと、違う。
じゃあ、なぜ瀧川を拒絶した?
側にいることが当然だと思っていたなら、離れる理由なんてなかった。
理由。
そう、理由があった。
理由があったから、滝川の側を離れた。
自分が瀧川の側にいる、理由。
自分がなぜ瀧川の隣に立つことに固執するのか。
それを考えた。
それが、理由だ。
考えて、考えて、わからなかった。
瀧川がなぜ自分の横にいるのか。
自分がなぜ瀧川の横にいるのか。
どうして、それが当然だと思うのか。
わからなかった。
わからなかったから、離れた。
その場所に執着する理由なんて、ないと思ったから。
自分が離れて。
瀧川が離れて。
自分たちの居場所が変わった。
それぞれの隣には、べつの人間が立つようになった。
それが、これからの当然だと思った。
それなのに。
それなのに、なぜだろう。
自分はいつでも本能のままに、瀧川の姿を探した。
そのクセは一向に治らなかった。
そして、いつでも、その姿を見つけ、胸が疼いた。
瀧川の隣には、常に知らない人間がいた。
おまえの居場所など、もうないのだと。
そう、いわれているような気がした。
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