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傍らに置いてあった、携帯電話と、コイン。
コインを手に取り、宙に翳した。
半年間、触れなかったコイン。
しばらくは普通に生活していて、ゲームをたのしんだ。
自分が得られる刺激ではなくて、緊迫した空気から伝わる、僅かな刺激。
珍しいことに、おもわず夢中になった。
だけど、いまはもう。
少し、退屈になった。
携帯電話のアドレス帳を開く。
番号は知っていても、一度も掛けたことがない相手。
電話越しで話す必要がないくらい、自分たちは常に、同じ空間にいた。
『はい』
数回のコール音で出た声は、懐かしく耳に響いて、その変わらない落ち着いた低いトーンに、おもわず口元を吊り上げた。
「ひさしぶり」
『・・・・トージか?』
少し驚いたようで、少し疑いの声色。
そりゃ当たり前だ。
半年ぶりの再会が、はじめての電話なんだから。
「そう。元気か?マヒト」
笑いの含んだ声で問うと、電話の向こうでも、微かな笑い声が漏れた。
『おまえ、生きてたんだな』
「おかげさまでね」
『電話なんかしてきて、どういう風の吹き回しだ?』
おかしそうに訊ねられて、何気なく手にしていたコインを眺めた。
それを指で触りながら、ふっと笑みを浮かべる。
「なんとなく、おまえの声が聴きたくなってね」
『それはそれは』
「というか、ひさしぶりに『JOJO』に行って、おまえの話を聞いて懐かしくなった」
『ほお』
「全然行ってねえんだって?」
『ああ』
まあな、と呟きながら、マヒトの口から小さな笑いが零れた。
『もう行く必要がなくなった』
「え?」
『あ、ちょっと待て』
電話を話したらしいマヒトが、側にいるらしい誰かと声を交わしている。
随分と騒がしい声と、それよりも落ち着いた笑い声。
「煩え。少し黙ってろ」というマヒトの呆れたような声と、それにぶーぶーと文句をいう声。
兄弟だろうか、と、そのやり取りを受話器越しに聞いていると、 しばらくして戻ってきたマヒトが「わりい」と呟いた。
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