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通り過ぎる酔っ払いやカップルを横目に、燈路はジーパンのポケットに無造作に手を突っ込んで、一歩踏み出した。
運がよくて、女。
まあ、相手が男であっても、見た目がヤバ系じゃなければ、運がいいほうだろう。
あった出来事は、一部始終報告。
そのルールも健在らしい。
マヒト相手に、嘘が通用するとは思えないし、作り話もする気にはなれない。
要は、退屈な毎日を刺激するだけの、なにかがあればいい。
ひさしぶりに、胸が疼いた。
なにも起こらなくてもいい。
それはそれで、普段と変わらない明日を迎えるだけだ。
道の脇につまらなそうに立っている女。
燈路の姿に、なにかを期待するような視線を投げつけてくるが、それは無視。
声をかけてくる勇気もない女は、いまは必要ない。
ゆっくりとした歩調で辺りに視線を廻らせた。
正直、こんなふうにじっくりと街を見たことはなかったような気がする。
街頭と店の煌びやかなネオン。
退屈な毎日に刺激を求める人々が、集まる場所。
自分も、この中に、溶け込んでいるのだろうか。
この場所から、抜け出すことはあるのだろうか。
「早坂?」
突然後ろから掛けられた声に、おもわず肩を震わせた。
振り返ると、見慣れないスーツ姿の見覚えのある顔。
燈路は安堵したように小さく息を吐き、ふわりと揺れる茶色い髪をかきあげた。
「・・・・なんだ、アンタか」
「アンタじゃねえだろ。先生と呼べ」
「はいはい」
たしかに保健医も一応は先生だろう。
まあ、でも、そんなことはどうでもいい。
「なにしてんの?こんなところで」
「アホ。それはこっちのセリフだ」
呆れたように呟いて、浅井がゆっくりと近づいてくる。
自分より少し背の高い浅井からは、僅かなアルコールの香りがした。
「飲んでた?」
「ああ、学生時代の奴らとな。で?」
「は?」
「は?じゃねえよ。似てるなと思って黙って見てみりゃ、一人でフラフラあてもなさそうに歩いて行くしよ。はっきり言って挙動不審」
「それは酷い」
「声かけようとしてたヤツ何人かいたぜ?」
「マジ?」
呆れ顔で頷いた浅井に、燈路はおもわず小さく吹き出した。
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