25人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜだかヒマで、退屈で。
そんな日常が、酷く望ましいと思っていたはずなのに、なぜか、不満を感じる。
胸に疼く感情。
刺激が欲しいのかもしれない。
少しでも、この胸が満たされるだけの、僅かな、刺激。
しばらくご無沙汰になっていた、馴染みの店のドアを開ける。
薄暗い店内に流れる大音量の音楽と、煙草とアルコールの匂い。
なぜだか懐かしくも感じるその雰囲気に、微かに息を吐き、いつもの定位置となっていた場所に足を進めた。
「あれ?トージじゃん!」
「おお!ひさしぶりー」
「生きてたんだな、おまえ」
自分の姿に気づいた仲間たちから次々と掛けられる声に、笑いながら片手を上げた。
うれしそうに走り寄ってきた一人が、燈路の肩を抱き、その頭をわしゃわしゃと力いっぱい撫でつける。
「キョウ!痛えって!」
「煩えよ、バカトージ!ちっとも顔も見せないで、いままでなにしてたんだよ!」
「ちょっといろいろあってね」
「うわ、なんか意味深」
「バーカ、そんなんじゃねえよ」
笑いながらキョウの背中を叩き、仲間たちの輪の中に入り込んだ。
手荒な歓迎を受けながら、仲間の一人が持ってきてくれたグラスを口に含む。
「で?結局のところ、なにしてたワケ?」
「なにって?」
煙草を咥えた燈路にライターの火を翳しながら、キョウがにやりと笑った。
「なんかおもしろいことでも見つけたと思ったんだけど」
「べつに、普通に生活してただけ」
「学校行って、メシ食って、寝て、学校行って・・・・ってヤツ?」
「そう」
「なんだよ、真面目すぎて気味わりいって」
「煩えよ」
ケラケラと笑いながら、キョウはポケットから潰れた煙草を取り出して、火をつけた。
「キョウったら、寂しかったのよ。いつもトージがこないってブツブツ言ってたんだから」
「へえ」
キョウの陰からひょっこりと顔を覗かせたシオリが、赤い髪を撫でながらにこりと笑った。
「余計なこというなよ」
「本当のことでしょ」
口を尖らせたキョウに、シオリはペロリと舌をだして、燈路の横に立った。
最初のコメントを投稿しよう!