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「もちろんあたしもね」
「ん?」
「これでも寂しがってたのよ」
「それは光栄だね」
「ありがたく思ってよ?」
そう言って、シオリはにかりと笑った。
自分の姿を見つけて、数人の見知った顔が通りすがりに声をかけていく。
他愛もない会話を繰り返し、手を振りながら去っていく後姿をぼんやりと眺めていると、 シオリが小さな声で呟いた。
「え?なんかいったか?」
大音量の音楽のせいで、会話をするのも普段の倍の声を出さなければ聞こえない。
首を傾げると、シオリはジーンズのポケットに手を入れながら、小さく肩を竦めた。
「トージさあ、最近マヒトに会った?」
「マヒト?」
「うん」
「いや、会ってないけど」
あっそ、と呟いて、シオリは小さく頬を膨らませた。
その様子に再び首を傾げると、隣で、キョウが愉快そうに笑った。
「シオリはマヒトがこないから寂しいんだよなー」
からかうような口調に、シオリはキッとキョウを睨みつけ、キョウの足首をスニーカーで蹴飛ばした。
「痛ッ!暴力女」
「うっさいよ、バカキョウ」
蹴られた足をブラブラと揺らしながら、キョウはさらにおもしろそうに笑った。
「マヒト、きてないのか?」
「ああ、全然」
「全然?」
「ホント、薄情者だわ」
そう吐き捨てて、シオリは持っていたグラスの中身を一気に飲み干す。
「シオリはマヒトに喰われちまったクチだからな。まあ、諦めろってことだろ」
「・・・・ホント、デリカシーのない男ね」
「しかたねえだろ、本当のことなんだし」
「あー、もう、マジ最悪」
そう言って、シオリはくるりと踵を返した。
「どこ行くんだ?」
「飲み物とってくる」
振り向きざまに、キョウに向けて舌を出して、シオリはそのままカウンターに向かった。
その後姿を眺めながら、燈路は煙草の煙をゆっくりと吐き出す。
「マヒトは全然?」
「ああ、全然」
「いつ頃から?」
「もう結構前かな。おまえがこなくなってさ、それからすぐマヒトも顔見せなくなった」
「そうか」
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