GAME

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 なにかが変わる瞬間。  そう、たとえば、あの二人のように。  なにかに気づく瞬間は、あるのだろうか。 「おい、いつまで寝てんだ」  その声に、ゆっくりと薄っぺらい布団から顔を出すと、白衣が眼に入った。  頭上から吐き出される煙に顔を顰めながら、視線を上げる。 「・・・・保健室で煙草なんて吸うなよ。ありえないだろ、普通」 「空気清浄機がフル稼働中だ」 「そういう問題か・・・・?」  ベッドの脇で淡々と煙草をふかす白衣の保健医に呆れ顔を返し、燈路は大きな欠伸をした。 「いま何時?」 「ちょうど昼休み。三時間は寝やがったな」 「まだ寝れそう」 「もう時間切れだ。寝るなら帰れ。客がいると邪魔くさくてしかたねえ」  そう言い放ち、保健医の浅井は自分のデスクに腰を下ろした。  足元にはフル稼働中らしい、空気清浄機。  燈路はもう一度欠伸をして、硬いパイプベッドから降りて大きな伸びをした。 「ガキのクセに夜遊びなんぞするからだ。少しは自粛しろ」 「たまにはいいじゃん。息抜きもさ」 「アホ。息抜きっていうのは、俺みたいな一日中ガキの相手をしている社会人が使う言葉だ」 「へいへい」  笑いながら、燈路は安っぽいソファーに腰を下ろした。  廊下からは話し声や笑い声などが響いては通り過ぎる。  煙草を吸うとき、保健室のドアには鍵が掛かっているはず。  ついでにドアの外に掛かっている板は『外出中』。  誰かが入ってくる心配も、誰かに見られる心配もないってことだ。  どこまでも用意周到な男だ、と思う。  煙を勢いよく吸い取る機械をぼんやりと眺めていると、ゆっくりと煙を吐き出しながら浅井が口を開いた。 「入れ替わりだな」  浅井は窓の外を眺めたまま、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。 「アイツがこなくなったと思ったら、つぎはおまえ」 「誰?」  問うと、浅井は窓を顎でしゃくった。  立ち上がり、その窓を覗き込む。
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