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校舎の陰から僅かに覗かせる太陽の光が、やわらかに降り注ぐ。
煙草臭い室内と、遠くから微かに聞こえる笑い声。
そんな中、浅井のポケットで、チャリンと小さな音が響いた。
「早坂」
顔を上げると、浅井が自分に向けて、小銭を弾いた。
「腹減った。パンとコーヒーな」
煙草の灰を落としながら、浅井はにやりと笑った。
手の中には五百円玉が二枚。
それにふっと笑みを零し、燈路はゆっくりと立ち上がった。
「リクエストは?」
「甘くないパン」
「了解」
そう言って、保健室を後にした。
ドアの前で立ち止まって、手の中の小銭を眺める。
勝ち負けなんか、意味のないものだった。
少しだけ、与えられる、刺激。
思い出したかのように、燈路は五百円玉を一枚、指で弾いた。
宙に浮いたコインを片手でキャッチする。
『ゲームの時間だ』
懐かしい声が、脳裏に響いた。
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