1人が本棚に入れています
本棚に追加
二限が終わったあと、彼女と二人で学食に向かう。僕が牛丼、彼女が釜玉うどんを頼んで、奥の方のテーブルに腰掛けた。しばらく、彼女が行きたがっている旅行スポットの話をしたりした後に、僕はあの夢の話をすることにする。
「あのさ」
「ん?」
うどんをよく噛みながら、彼女がこちらを見る。
「いや、実は、昨日君の夢を見て」
「お、珍しいね」
「そうそう。それがさ、煙草吸ってる夢で」
「え? 私が?」
「うん」
何それ~、と言って、彼女はうどんをまた一口すすってから、実際に煙草を吸うジェスチャーをする。全然似合わない。どちらかというと投げキッスしているみたいだったので、思わず吹き出してしまう。
「全然似合わないね」
「ダメか」
「吸ってないよね?」
「本当に、ってこと?」
「そうそう」
「吸わないよ~」
そりゃそうだ。もちろんこれは彼女の証言に過ぎなくて、本当のところはどうなのか、ということは何も分かっていないわけだけど、僕は彼女の言葉を信じることにした。というか彼女が喫煙しているかしていないかなんて、「本当に」確かめたい場合どうすればいいんだろう。一日中見張っているぐらいしか思いつかないけど、それは無理だろう。だからつまり、彼女から聞いたことはとりあえず信じてみることが大切で、というかそれしか僕には出来ないってことだ。
「他に聞きたいことは?」
うどんを食べ終わった彼女が逆に訊ねてきたので、僕はしばらく考えてから、「今のところは無いかな」と答える。というか、こんな思ったこともなかったようなことが初めて気になったのは、あの変な夢を見たせいであって、つまり非常に珍しいケースだ。二度とないだろう、きっと。
「何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてね。難しいのはダメだけど」
「ん、わかった。ドイツ語とかね」
バカにするな~、と言って彼女が笑うので、僕も笑う。
最初のコメントを投稿しよう!