目を開けると、そこには

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この村はとくにキツネに畑を荒らされたという事例もなかったし、 その後もキツネを見かける声は特になかった。 派手に転んだ割には特段ケガもなく、 田舎の日常に戻れるかと思いきや、 一つだけ変化があった。 わたしは言葉にしがたい身の回りの違和感を感じ取れるようになっていたのだ。 夫婦で田植えをしようという時に私はいつもより悲しげに首をもたげる苗木を見てふと 「父ちゃん、田植えは待った方がええよ。今夜嵐が来っから」 と夫に口走ってしまった。 「生意気いうな。俺の通りに動けオラ」 と不機嫌にさせてしまい、 とことん引っ叩かれて泣き腫らしていると、 実際にその夜から翌朝まで続いた大嵐でわたし達の田んぼは全部吹き折れてしまった。 お隣さんと世間話をしていて、 お国の話になった時もいつもと違ったところ、 遠く山の奥から感じた事のない風が吹いた気がして 「きっと春風といっしょに新しい日本のお国が出来るよ」 と言うとその年に満州国が建設されて、みんなびっくりしていた。
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