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(一)
ネエさんは、絞り出すように言った。
「こう見えてもアタシは高貴な公家の生まれでね。十六の歳までは、公家のお姫様だったんだよ」
「十六の時に、何かあったんですか」
「熊野にある神社にお詣りに行ったのさ。ところがその帰り道で、熊野の神官に襲われて、拉致されちまった。一目惚れされちゃったんだ」
「へえー」
「その神官が実は鬼だった。で、その鬼との間に生まれたのがこの子ってこと」
「えっ? 鬼?」
カイソンがのけぞった。
「鬼って空想の物と思ってましたよ。本当にいたんですか」
「いたんだよ。一見、普通の人間だけど、頭に角を隠しててね。気付いた時にはもう逃げようがなかった」
「その鬼はどうなっちゃったんですか」
「鬼であることが神社にばれて、雲隠れさ」
「じゃあ、名門のご実家へ戻ればよかったんじゃ」
「アタシだけなら戻れたんだけどね」
ネエさんはため息をついた。
「この子は鬼の子だってこと、実家では知ってる。高貴な家柄だけに鬼の子を引き取れば、家の名声に傷がつくというのを恐れて、この子は絶対家に入れるなというのが実家の反応だったのさ」
「うわあ。やだな。世間体だけ気にして愛情なし?」
ネエさんは悲しげに眉をひそめた。
「そういうこと。で、アタシは女手ひとつでこの子を育てる決意をした」
「なるほど。それで刀売り」
「ああ。今の世の中、武器を必要とする人は多いからね。結構収入になるんだよ。アタシ自身、気持ち悪いし後ろめたいけど、それで得たお金で暮らしをたてようとしたのさ」
シンキチは母親の言葉にうなずくと、ウシワカに目を向けた。
「さっき私と戦っていたとき、ウシワカさんはおっしゃいましたよね。自分は尋常の人間の道を外した、ろくでもない人間だって」
「ああ」
「私も、尋常の人間の道を外した、ろくでもない人間です。あなた以上に」
シンキチは自らを指さした。
「今母が言ったように、私は人間と鬼の相の子なんです。昼間は普通の人間の女の子でしたが、夜になると鬼のほうが目覚めてしまう。私の意志とは無関係に、自分の体が大きくなったり、変形してしまう。それに伴って尋常の人間にはありえない馬鹿力も発揮されるようになって」
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