第2話

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     (一)  朝日を受けて輝く水面で、小石が跳ねた。  小石はウシワカが投げたものだ。三つ四つ跳ねたところで、鴨川の流れの中へ吸い込まれるように沈む。近くで羽を休めていた白鷺が、驚いたように飛び立った。  ウシワカの背後、河原の草が繁茂したところに、カイソンとシンキチが並んで座っている。  「もしも。もしもだぜ。シンキチ」  シンキチに背中を向けたまま二つめの小石を拾いながら、ウシワカが言った。  「もし、母上が夜な夜な黒ずくめの恰好をして、道行く武者たちから刀を強奪してるとしたら、どうなると思う?」  ウシワカはシンキチに向き直った。  カイソンが立ち上がった。  「おいおい、ウシワカ。息子さんにそんな疑ぐるようなこと言っちゃっていいのかよ」  ウシワカは構わず続ける。  「俺、いや俺たちは、黒ずくめの怪物の正体はお前の母上だと睨んでいるんだ。今のところ、明確な証拠はないけど、状況証拠はある。ずっと刀の強奪をやってりゃあ、いつかは発覚する。発覚したら、どうなる?」  「…」  シンキチは、口をへの字に曲げ、黙った。  「発覚したらここに検非違使の連中がやって来る。いくら強い奴だって、奴らに包囲されたらとっ捕まるぜ」  シンキチは立ち上がった。顔面が蒼白になっている。  「もし、捕まったらどうなります?」  ウシワカはシンキチの眼をまっすぐに見つめた。  「当然、打ち首だ。命が助かる可能性は絶無だ」  「そんな…」  やや間を置いて、ウシワカは言った。  「お前、母上を助けたいだろ」  「もちろんです」  シンキチがうなずいた。  「なら、ひとつだけ方法がある」  「どんな方法ですか」  シンキチはウシワカに駆け寄り、縋り付いた。  「お前が母上を見張るんだ」  「見張る?」  「夜中に母上が外出しないかどうか、見張るんだ。外出しそうになったらお前が制止する。愛する息子に自分の悪業を知られたくはないはずだから、お前が制止すれば外出はしない。外出しなけりゃ刀狩りはできないだろ」   「なるほど。それなら確かに、もし母が黒ずくめの正体だとしても、これ以上刀狩りを続けることはできなくなりますね」
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