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「もしお前が母上の外出を止めても五条大橋に黒ずくめが現れるようなら、俺たちの疑いが間違ってたってことになって、母上の嫌疑は晴れる。だから俺は、今夜から橋の上で黒ずくめが現れないかどうか、見張るつもりだ」
「了解しました。では私は、今晩から夜中じゅう、母を見張ることにします。昼間寝て、夜は徹夜します」
「頼むぜ。お前の母上のためだ」
「ええ。私としては、それで母の嫌疑が晴れれば一番いいですし…。万一母が黒ずくめの正体だとしても、これ以上の悪行を止めることができます」
「俺は? どうしたらいい」
カイソンが割って入った。
「俺たちは鞍馬での修業があるから、昼寝はできない。現場で交替で仮眠しよう」
「おう。承知した」
ウシワカは満足そうにうなずいた。
「よし。これで決まった。今夜から早速、行動開始だ」
(二)
東の空に、明るい月が光っている。
鞍馬の山から京へと歩を進める、二人の少年の影が動いていた。
ウシワカとカイソンである。
「これで、五日目だな」
歩きながらカイソンが、横に並ぶウシワカを見下ろした。
「ああ」
「昨日まで黒ずくめは現れなかった。そろそろ、決まりかな」
ウシワカはうなずいた。
「だな。このところ毎日のように現れていたのが、ネエさんを見張るようになったらぴたりと現れなくなった。やっぱ、ネエさんが黒ずくめだな」
カイソンは腕を組んだ。
「で、どうする? このまま監視を続けて自然消滅でいいのか?」
ウシワカは首を振った。
「いや、そうはいかねえ。お前の刀、取られたままだしよ。俺たち、こないだは完敗はしなかったけど、お前の刀を取られた分、ちょっぴり負けだ。少なくとも刀は取り返さないと、気が収まらねえ」
「おう。じゃ、次の手は?」
「もちろん、考えてあるさ」
ウシワカは口元をわずかに上げ、笑った。
「俺が直接、ネエさんに話す」
「え? 直接?」
カイソンは目を瞠った。
「あんたが黒ずくめなのは分かってる。検非違使に密告されたくなかったらカイソンの刀を返せって要求する。そして、二度と刀狩りはしませんって神仏に誓う証文を書かせるんだ。そこまですりゃあ、俺たちの勝ちだろ」
「なるほど。そんなら確かに俺らの勝ちだな」
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