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「そういうこと。いくさってものは何も力任せでぶっ倒すだけが勝ちじゃない」
ウシワカは自分の頭を指さした。
「ここで勝つ。これもいくさのうちさ」
「お前、なかなか考えるな…。でもよ」
カイソンは顎に手をやった。
「でもよ。話してるそばからネエさんが暴れたりしたらどうする」
「大丈夫。シンキチを同席させりゃあ、息子の手前、ネエさんはみっともない真似はしねえ」
「そうか。そんなら、万全かあ」
カイソンは手を打った。
「よーし。てことはここいらでこの見張りは終わりだな。気合入れなおして、もうひと頑張りだ」
語り合う二人の前方に、五条大橋が見えて来た。
橋の下で、シンキチが手を振っている。
「おなか、空いてるでしょ。近くの竹林でタケノコ、採って来たんで。タケノコ粥、召し上がってください」
「おお。いいなあ」
と、ウシワカ。
「シンキチさん。いいひとだな」
カイソンが、うっとりと頬を染めた。
その日の晩は、月はなかった。
空一面に黒い雲が覆い、強い風が吹き荒れている。
時折、空が光る。雷の光である。
「おい」
カイソンがそばで寝ているウシワカを揺さぶった。
「おい。ウシワカ。ちょっと起きてくれよ」
「何だ。なんか異変でも?」
ウシワカは橋の上で寝ころんだまま、薄目をあけた。
眼を擦るウシワカの顔に、雨粒がひとつ落ちた。
「雷か。この季節には珍しかねえぜ」
突風が吹く。
川面で群れていた鴨たちが一斉に飛び立った。
「いや。雷や風じゃねえ。なんか、変な音がしてねえか?」
「音?」
ウシワカは起き上がり、耳に手を当てた。
聞こえるのは、時折繰り返す雷鳴。
風が吹き荒れる音。
鴨たちの羽ばたき。
「ほら。なんていうか、なにかを突き刺すような、音…」
「突き刺す?」
二人の顔を、稲妻の光が明るく照らした。
どどどおーん。
近くに落雷したようだ。
「うわあああっ」
大きな叫び声が、突然響いた。
「やめてくれ。助けて!」
「橋の下からだ」
「シンキチさんの声だぞ」
ウシワカとカイソンは脇に寝かせてあった刀を拾い、立ち上がった。
弾むような勢いで、橋の下へと駆け出す。
ネエさんを家の中で見張るため、閉められていたはずのあばら家の戸が開いたままになっている。
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