第2話

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 「シンキチさん、どこです!」  カイソンが叫んだ。  「ネエさん、いるかい?」  ウシワカが声を高める。  「家の裏かもしれない。回ってみよう」  ウシワカが駆けながら、あばら家の後方へ向きを変える。  カイソンが無言でうなずき、ウシワカの横に並んで、走る。   「あっ」  「うわあっ」  二人は同時に立ち止まった。  カイソンは後ろ向きに転び、尻餅をついている。  「こ、これは」  カイソンはあばら家の裏手を、指さした。  浅葱色の狩衣が、あばら家の外側にぶら下がっている。  狩衣は背中側から刀で 左右の肩、心臓のあたり、左右の脇腹の五か所を貫かれ、あばら家に縫い付けられた形になっている。  貫かれたところからは、おびただしい量の血が流れていた。  狩衣は、夕方シンキチがタケノコ粥を二人にふるまっていた際、身に着けていたものだ。   「シンキチさん!」  カイソンが起き上がり、口に手を当てた。  「シンキチさん。どこですか」  返事はない。  「くそっ」  ウシワカは地団太を踏んだ。  「ネエさんもいねえ。て、ことは…」  「くそっ。俺が甘かった」  ウシワカはシンキチの狩衣にすがり付いた。  「俺たちの目論見に気が付いて、ネエさんはシンキチを殺して、逃げた。この状況からして、そうとしか思えねえ」  「まさか…」  カイソンは持っていた刀を、取り落とした。  「まさか…。それはねえだろ。愛する息子を手にかけるなんて」  「まさかだけど、それしかありえねえ。俺たち交代で橋の上で見張ってたけど、橋の下へ降りてく奴はいなかったはずだ」  「ネエさん、俺たちが検非違使に密告すると思い込んで、息子を殺してしまったってことか」  「そうだよ。くそっ。くそっ」  ウシワカはあばら家に縫い付けられていたシンキチの狩衣から、刀を引き抜いた。  血に塗れた刀を投げ捨てると、狩衣を愛おしそうに胸に抱いた。  「俺の甘さが、シンキチを殺してしまった。そしてネエさんを子殺しに落としてしまったんだ」  ウシワカは狩衣を抱きしめると、大粒の涙を流した。  「お前ひとりの責任じゃない。俺も軽い気持ちで、お前の作戦に乗ってしまった。まさか、こんなことになるなんて…」
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