第3話

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     (一)  翌、深夜。  五条大橋の上を、ゆっくりと歩む稚児の姿があった。  稚児を照らすのは、ほのかな月光のみ。深閑とした薄闇が辺りを包んでいる。  静けさを僅かに破るように、稚児は横笛を吹いていた。  ウシワカである。  「こうして見るとキマッテるよなあ」  橋の渡り口近くの草叢に姿を潜めるカイソンが、ため息をついた。  「どこでおめかししたんだか聞かなかったけど…。稚児ってよりも女の子みたいだ」  しずしずと歩むウシワカを、カイソンはうっとりと見つめていた。  純白の小袖に唐綾を重ね、その上に水色の帷子。  純白の袴。唐織物の直垂。  色白の頬に薄く化粧を施し、眉を細く書き、髪をたかく結い上げている。  頭部から肩にかけて被衣をかけたその姿は、美少年というより空から舞い降りた天女のようである。  腰には、黄金づくりの太刀を帯びている。  「まずはキラキラの平家の公達の格好をして、黒ずくめを油断させる。その上で金の高級そうな刀を差してりゃ、必ずやつは欲しがる。気が緩んだまま寄って来たとこを、すかさず叩く」  それが、ウシワカの作戦だった。  「俺は?」  カイソンは自らを指差した。  「見てるだけでいいのか?」  ウシワカは笑みを浮かべてうなずいた。  「もちろんだ。黒ずくめは俺一人で倒す。お前は手出しするな」  「大丈夫なのか」  「ああ」  念を押すカイソンに、ウシワカは改めて深々とうなずいた。  (本当に大丈夫なのか)  草叢に隠れてウシワカを見つめるカイソンに、不安がよぎった。  (黒ずくめはシンキチさんを殺しちまったんだぞ。黒ずくめの正体が刀売りのネエさんだとすると、息子殺しだ。自分を検非違使に売り渡すつもりって思いこんだら、実の息子だって殺しちまう。まして、他人の俺たちの命を取るのにためらいはないはずだ)  カイソンの背筋に、冷たいものが走っていた。  カイソンは首を振った。  「いや。怖かねえ。怖かねえよ」  自らに言い聞かせるように、あえて声を出す。  (手え出すなって言われたけどよ。もしウシワカが危なくなったら、俺も一緒に戦うんだ)  カイソンは腰に差した刀に手をやった。ウシワカが予備として所有していた刀を借りたのだ。  「怖かねえ。いざとなったら俺の力で黒ずくめを倒してやる」  つぶやくカイソンの膝ががくがくと震えていた。
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