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(現れたな)
横笛を吹きながら、ウシワカは被衣を通して前方にぼんやりと浮かぶ、黒い影を認識していた。
黒ずくめである。
黒い鼻緒の下駄に黒い衣。黒塗りの太刀となぎなた。黒い頭巾をすっぽりと被り、眼だけをらんらんと輝かせている。六日前に対峙した時と、全く変わらない姿だ。
黒ずくめは、なぎなたを持したまま、橋の中央で仁王立ちした。
手を広げ、ウシワカの進路を遮る。
ウシワカは黒ずくめの存在を無視するかのように、笛を吹くのをやめず、まっすぐに進んでゆく。
黒ずくめが、動いた。
なぎなたを物凄い速さで、びゅんと振る。
その切っ先が、ウシワカの眼前に向けられた。
ウシワカの足が止まる。
横笛を口から離し、笛の音が止まった。
黒ずくめは無言のまま、右手でなぎなたを持ったまま、左手でウシワカの刀を指差した。
指差した指を、さらに橋の床に向ける。無駄な抵抗をせず、刀を置いてゆけとウシワカに命じているのだ。
次の瞬間。
ウシワカの笛が、宙を舞った。
ウシワカが黒ずくめの顔面に向け、投げつけたのだ。
黒ずくめはなぎなたで笛を跳ね飛ばす。笛が真っ二つに割れた。
跳ね返す勢いのまま、なぎなたの切っ先をウシワカに向ける。
その時。
ウシワカが、消えた。
ウシワカが被っていた被衣だけが、宙を舞っている。
ウシワカを貫くはずの切っ先が被衣を貫き、黒ずくめは前につんのめった。
ウシワカは、橋の欄干に立っている。目にもとまらぬ速さで飛んだのだ。
体勢を整え直した黒ずくめのなぎなたが、今度は欄干へ向かう。
またもウシワカは消える。
いつのまにか、黒ずくめの背後に立っている。
「こっちだ」
ウシワカが手を叩くと、黒ずくめは振り向いた。
みたび、なぎなたがウシワカを襲う。
ウシワカは、前方に跳躍した。
なぎなたをまたもや空振りし、前のめりに倒れかける背中に着地する。
黒ずくめはうつぶせに倒れた。
ウシワカは黒ずくめの背に左足を乗せ、腰に差してあった金の刀を抜いた。
刀の切っ先を、黒ずくめの頭部へと向ける。
「どうだ。俺に降参するか」
黒ずくめは、うつぶせのまま首を振った。
「ふん。まずはその頭巾で隠した顔を、見せてもらうぜ」
ウシワカが左手で黒ずくめの頭巾を脱がそうとした時である。
黒ずくめの背中が、波打った。
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