第1話

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     (一)  「おい。来たぞ」  京の五条大橋。  丑三つ時。街全体が眠っている。  物音一つせず、静かな中、僅かな月明かりを頼りに、二人の少年が橋を渡りはじめていた。  二人は、白色の鎧直垂に白糸縅の鎧を身に付け、白塗りの太刀を帯びている。  白ずくめのお揃いの出で立ちだ。  声を掛けたほうの少年は、ウシワカという。十代前半の小柄な少年。小柄ながら眼つきは鋭く、眉がきりりと上がっている。子供ながら精悍な容貌である。色はやや白く、血筋の良さを感じさせる。  ウシワカは背中には切斑の矢を背負い、右手に滋藤の弓を持していた。  「来たのか」  声をかけられた少年が一瞬びくっとして、頷いた。名は、カイソンという。  齢はウシワカより三つ上。顔も体も、ひょろりと細長い。  歩きながら、膝が震え始めている。  「ああ。後ろに殺気を感じる。こんな真夜中に普通の人間が歩いていると思うか? 間違いない。噂の怪物だぞ」  対照的に、ウシワカは落ち着き払っていた。  「そ…そうだな。でもまさか本当にあ…現れるとはな」  声をかけられた少年の語尾が消え入りそうだ。  「恐いのか。でもカイソン。俺たち、あいつを退治するために来たんだろ」  「ばか言え。俺も武士の子。恐くなんかない!」  カイソンと呼ばれた少年は振り向いた。  大きな人間の影が、そこにあった。  背丈は、六尺はあるだろう。  墨染めの衣を身に付けているのがわかる。山伏に似た姿だ。  薄暗くはっきりとは見えないが、肩幅が広く、腕や足も野太く見える。見るからに逞しそうな体だ。  顔面を黒い頭巾で覆い、眼だけが頭巾の隙間かららんらんと輝いている。  右の手に、なぎなたを持している。  (うわっ。でかい)  ウシワカは舌を巻いた。  (普通のなぎなたの一倍半、いや二倍あるかも…。あれを振り回すとしたら、すごい馬鹿力だ)  落ち着いていたウシワカも、さすがに一歩後ろに下がった。  (こいつに違いない。近頃夜中に出没する刀狩りの怪物。毛むくじゃらで、目が三つ、腕が六本。通りかかる武士を襲って刀を奪うという。すでに百人近くが刀を奪われている)  ウシワカとカイソンは、京の外れ、鞍馬の寺でともに修行を積む学友だ。この怪物の噂を聞き、好奇心と功名心から怪物を見つけ、退治するつもりでやって来た。
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