23人が本棚に入れています
本棚に追加
(一)
「おい。来たぞ」
京の五条大橋。
丑三つ時。街全体が眠っている。
物音一つせず、静かな中、僅かな月明かりを頼りに、二人の少年が橋を渡りはじめていた。
二人は、白色の鎧直垂に白糸縅の鎧を身に付け、白塗りの太刀を帯びている。
白ずくめのお揃いの出で立ちだ。
声を掛けたほうの少年は、ウシワカという。十代前半の小柄な少年。小柄ながら眼つきは鋭く、眉がきりりと上がっている。子供ながら精悍な容貌である。色はやや白く、血筋の良さを感じさせる。
ウシワカは背中には切斑の矢を背負い、右手に滋藤の弓を持していた。
「来たのか」
声をかけられた少年が一瞬びくっとして、頷いた。名は、カイソンという。
齢はウシワカより三つ上。顔も体も、ひょろりと細長い。
歩きながら、膝が震え始めている。
「ああ。後ろに殺気を感じる。こんな真夜中に普通の人間が歩いていると思うか? 間違いない。噂の怪物だぞ」
対照的に、ウシワカは落ち着き払っていた。
「そ…そうだな。でもまさか本当にあ…現れるとはな」
声をかけられた少年の語尾が消え入りそうだ。
「恐いのか。でもカイソン。俺たち、あいつを退治するために来たんだろ」
「ばか言え。俺も武士の子。恐くなんかない!」
カイソンと呼ばれた少年は振り向いた。
大きな人間の影が、そこにあった。
背丈は、六尺はあるだろう。
墨染めの衣を身に付けているのがわかる。山伏に似た姿だ。
薄暗くはっきりとは見えないが、肩幅が広く、腕や足も野太く見える。見るからに逞しそうな体だ。
顔面を黒い頭巾で覆い、眼だけが頭巾の隙間かららんらんと輝いている。
右の手に、なぎなたを持している。
(うわっ。でかい)
ウシワカは舌を巻いた。
(普通のなぎなたの一倍半、いや二倍あるかも…。あれを振り回すとしたら、すごい馬鹿力だ)
落ち着いていたウシワカも、さすがに一歩後ろに下がった。
(こいつに違いない。近頃夜中に出没する刀狩りの怪物。毛むくじゃらで、目が三つ、腕が六本。通りかかる武士を襲って刀を奪うという。すでに百人近くが刀を奪われている)
ウシワカとカイソンは、京の外れ、鞍馬の寺でともに修行を積む学友だ。この怪物の噂を聞き、好奇心と功名心から怪物を見つけ、退治するつもりでやって来た。
最初のコメントを投稿しよう!