23人が本棚に入れています
本棚に追加
「何だ?」
ウシワカがつぶやいた。
黒い法衣が膨らむ。
法衣の下で、何かが次第に大きくなり、ぐるぐる回転している。
それはついに、踏みつけるウシワカの左足を、持ち上げた。
法衣の背中が破れる。
そこから出てきたのは、三本目の腕だった。
三本目の腕が、ウシワカの足を掴む。
均衡を失ったウシワカは、仰向けに倒れ、刀を取り落とす。
ウシワカの足から自由になった黒ずくめが素早く起き上がる。
その背中に、さらに三つの膨らみができている。
膨らみはあっという間に大きくなると、次々と法衣を破り、腕が伸びてきた。
黒ずくめは苦しそうに顔面を覆い、うずくまった。
ウシワカが刀を拾い立ち上がったのと、黒ずくめが立ち上がるのは同時だった。
黒ずくめの顔面に、ウシワカは一歩後じさった。
頭巾の額の部分が裂け、三つ目の目が現れていたのである。
草叢に隠れていたカイソンは、思わず叫んだ。
「三つの目と、六本の腕…。やっぱりあいつ、人間じゃねえ。化け物だ!」
(ニ)
カイソンは、黒ずくめに向け、突撃した。
「俺も戦う! そんな化けもん、一人じゃ無理だ」
ウシワカが振り向いた。
「やめろっ! お前が手に負える相手じゃねえ」
その時。
黒ずくめの三つ目の目が光り、同時に新たに生えてきた四本の腕が動いた。
四本の手の先から、何かが飛んだ。
「危ねえ!」
ウシワカは跳躍した。
「ウシワカ!」
「うぐっ」
カイソンの目の前に着地したウシワカが、がくりと膝をついた。
「ウシワカ! どうした。しっかりしろ」
カイソンはウシワカの前に向かった。
「げっ」
カイソンは息を呑んだ。
ウシワカの太もものところに、何かが深々と刺さっている。
少なくとも十や二十はあるようだ。
何かが刺さった傷口から、鮮血が溢れ始めている。傷は、かなり深い。
「痛え。こりゃ、ちょっとばかり堪えるな」
ウシワカはつぶやくと、刺さったものを一つ抜いた。
「爪か。あいつ、鋭く尖った手の爪をに飛ばせるんだな。武器として」
カイソンは震え上がり、尻餅をついた。
「うわっ。あの化け物、そんなことまでできるのか」
「そうらしいな。で、今問題なのは、だ」
ウシワカは両手を膝につけ、立ち上がろうとする。
最初のコメントを投稿しよう!