第4話

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 ウシワカの拳の煙から、深紅の炎が現れ始めていた。       (二)  拳から発したウシワカの炎は、腕へ、肩へ、胸へ、腹へ。そして全身へと広がってゆく。  ウシワカの体を、紅蓮の炎が覆い尽くしていた。  「見たか。これが鞍馬の天狗様から伝授された究極の技、『不動明王』だ!」  「ウシワカ。熱くねえのか?」  カイソンはまた、尻餅をついた。尻を地べたにつけ、後じさりしながら声をかける。  「俺自身は全く熱くねえ。この炎は俺の体に秘められた活力を熱に変えたものだからな」  炎の中で、ウシワカは笑った。  「さて。そこで、黒ずくめさんよ」  ウシワカは黒ずくめに向け、一歩踏み出した。  「俺はこの炎でお前を焼き尽くすこともできる。どうだ? 俺に降参するか」  黒ずくめは首を振った。  新たに生えてきた、四本の腕が同時に振られた。  鋭い爪が再び空を切り、ウシワカを取り巻く炎へと向かう。  ジュッ。  有機物が焦げる臭いが広がった。  黒ずくめが放った爪が、ウシワカの体に達する前に、炎で燃え尽きたのだ。  のみならずすでにウシワカの足に刺さっていた十数本の爪も、炎に熱せられて燃え、気体となって蒸発をはじめている。  「すげえ。爪が蒸発すると同時に、傷口が塞がっていくぞ」  カイソンはウシワカの足を指さし、目を剥いた。  ウシワカは黒ずくめに向け、さらに一歩を踏み出す。  「さあ、どうする? 降参するか」  黒ずくめは、後じさりをはじめた。  黒ずくめの後ろは、橋の欄干である。  黒ずくめと欄干の間が、じりじりと詰まりつつあった。  黒ずくめは振り返り、橋の下の川に目をやる。  「無駄だ。もう逃げられないぜ。さっき草叢に隠れる前にお前の小舟を見つけて、舫い綱を切っちまったからな。お前の船はとっくに下流へ流されてるぜ」  カイソンが叫んだ。  「カイソン。よくやってくれた! これで黒ずくめは完全に逃げられねえ」  ウシワカが叫んだ。  黒ずくめは、すでに欄干に背中が付いている。手を伸ばせば届くところまで、ウシワカは黒ずくめを追い詰めていた。  「覚悟しな!」  ウシワカはさらに一歩進んだ。  両腕を黒ずくめの背中に回し、包み込むように黒ずくめを抱きしめる。  黒ずくめの法衣に炎が移り、布が焦げる臭いがし始めた。  「熱い…。熱い」
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