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ウシワカとカイソンが並んで、その前に胡坐をかいた。
ウシワカが口を開いた。
「昨日の晩、刀売りの小屋の前でお前の服が血まみれで串刺しになっているのを見た時は、お前がネエさんに殺されちまったって思ったさ。けどな」
「けど?」
シンキチが首を傾げた。
「鞍馬へ帰る道すがら、変だなと思い始めたのさ。お前の悲鳴を聞いて、俺とカイソンは橋の脇にある階段を使って、ただちに橋の下へ降りた。ほんの少しの時間だぜ。どう考えても、お前の遺体をどこかに隠して、お前の着衣をはぎ取って串刺しにするなんて時間はない。だから、お前が自作自演で自分が殺されたように見せかけたんだろうって踏んだ」
「はい…」
シンキチは深くうなずいた。
「お見通しで。その通りです」
「あのー。割り込んで悪いけどさ」
カイソンが首をかしげて言った。
「そもそもさあ、なんで男装してたの?」
「その質問にゃあ、アタシが答えるよ。本人は言いにくいだろうからね」
いつの間にかウシワカとカイソンの背後に、シンキチの母、刀売りのネエさんが立っていた。
「ふふ。あんたら二人、アタシが黒ずくめだと思ってただろう」
ウシワカが応じた。
「はは。確かに。息子殺しの極悪非道って思ってましたよ」
ネエさんはカラカラと笑った。
「極悪非道かい。そりゃあすごい誤解だね。こんな息子思いの母親はいないのに」
「失礼しました」
ウシワカは頭を掻いた。
「それはいいんだけどね」
ネエさんは真顔になった。
「この子も出生の秘密があるんだよ。にわかには信じてもらえないだろうけどね」
「出生の秘密?」
ウシワカとカイソンが、同時に声を上げた。
「ああ」
ネエさんが続けた。
「この子の父親は、人間じゃないんだよ」
「えっ? 人間じゃない?」
二人は眼を見開いた。
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