第1話

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(まずは、冷静に相手を観察して…弱点を見極める)  ウシワカは怪物を凝視した。  現れた大きな影は、黒ずくめだ。墨染めの衣の他に黒糸縅の鎧を身につけ、黒漆の刀を腰に差している。下駄の鼻緒も黒だ。  (毛むくじゃらって噂は、全身黒ずくめの格好だからだ。眼は二つだし、腕は二本だ。物の怪や妖怪の類じゃない。人間じゃないか)  じっと観察し様子を窺うウシワカの傍らで、大音声で叫ぶ声が響いた。  「我は鞍馬にて修業中の僧、カイソンと申す。そこなる黒ずくめの者。何者じゃ。名を名乗れ」  黒ずくめは、名乗らない。  「さては貴様、このごろこの橋で通りかかる公達や武士を襲い、刀を奪うという悪党だな」  黒ずくめは、なお無言だ。黙したまま、カイソンを睨んでいる。  「黙っているなら、認めたものと見做さん! 成敗いたす!」  (待て…早まるな)  敵の力量を見極めず、いきなり攻撃は危険だ。  ウシワカが止めようと手を挙げる前に、カイソンは弓を引いていた。  (いけねえ)  ウシワカは後悔した。  さっき、  「恐いのか」  とカイソンに言ってしまったことだ。  子供とは言え武士の子にとって臆病と言われることは屈辱である。  自分は臆病者ではない、と反発する気持ちがカイソンに火をつけてしまったのだ。  カイソンは矢を黒ずくめに向け放った。  ヒュウと風を切って、暗闇の中を矢が飛ぶ。  次の瞬間。  黒ずくめの長いなぎなたが動いた。  目にも止まらぬ速さだ。  カイソンの放った矢が撥ね飛ばされ、空中で真っ二つに割れた。  カイソンは二本目の矢を放つ。  黒ずくめは僅かに体を傾け、矢をかわした。  三本目。  黒ずくめのなぎなたがまた動く。  暗闇で火花が散る。  なぎなたの刃と鏃がぶつかり、矢が跳ね返される。  ウシワカは舌を巻いた。  (すげえ。あの長いなぎなたを自分の腕みたいに自在に操ってやがる)  すでに、戦闘状態である。  やむなくウシワカも自らの弓を手にとった。  隣にいるカイソンと同時に、黒ずくめに向け矢を放った。  黒ずくめがすぐに反応する。  右手に持つなぎなたでカイソンの矢をまたもはじき返す。同時に左腰に差していた小刀を抜き、ウシワカの矢を撥ね飛ばした。  (すげえ)  ウシワカは眼を見開いた。  (右も左も、自在に操れるのか)
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