23人が本棚に入れています
本棚に追加
(まずは、冷静に相手を観察して…弱点を見極める)
ウシワカは怪物を凝視した。
現れた大きな影は、黒ずくめだ。墨染めの衣の他に黒糸縅の鎧を身につけ、黒漆の刀を腰に差している。下駄の鼻緒も黒だ。
(毛むくじゃらって噂は、全身黒ずくめの格好だからだ。眼は二つだし、腕は二本だ。物の怪や妖怪の類じゃない。人間じゃないか)
じっと観察し様子を窺うウシワカの傍らで、大音声で叫ぶ声が響いた。
「我は鞍馬にて修業中の僧、カイソンと申す。そこなる黒ずくめの者。何者じゃ。名を名乗れ」
黒ずくめは、名乗らない。
「さては貴様、このごろこの橋で通りかかる公達や武士を襲い、刀を奪うという悪党だな」
黒ずくめは、なお無言だ。黙したまま、カイソンを睨んでいる。
「黙っているなら、認めたものと見做さん! 成敗いたす!」
(待て…早まるな)
敵の力量を見極めず、いきなり攻撃は危険だ。
ウシワカが止めようと手を挙げる前に、カイソンは弓を引いていた。
(いけねえ)
ウシワカは後悔した。
さっき、
「恐いのか」
とカイソンに言ってしまったことだ。
子供とは言え武士の子にとって臆病と言われることは屈辱である。
自分は臆病者ではない、と反発する気持ちがカイソンに火をつけてしまったのだ。
カイソンは矢を黒ずくめに向け放った。
ヒュウと風を切って、暗闇の中を矢が飛ぶ。
次の瞬間。
黒ずくめの長いなぎなたが動いた。
目にも止まらぬ速さだ。
カイソンの放った矢が撥ね飛ばされ、空中で真っ二つに割れた。
カイソンは二本目の矢を放つ。
黒ずくめは僅かに体を傾け、矢をかわした。
三本目。
黒ずくめのなぎなたがまた動く。
暗闇で火花が散る。
なぎなたの刃と鏃がぶつかり、矢が跳ね返される。
ウシワカは舌を巻いた。
(すげえ。あの長いなぎなたを自分の腕みたいに自在に操ってやがる)
すでに、戦闘状態である。
やむなくウシワカも自らの弓を手にとった。
隣にいるカイソンと同時に、黒ずくめに向け矢を放った。
黒ずくめがすぐに反応する。
右手に持つなぎなたでカイソンの矢をまたもはじき返す。同時に左腰に差していた小刀を抜き、ウシワカの矢を撥ね飛ばした。
(すげえ)
ウシワカは眼を見開いた。
(右も左も、自在に操れるのか)
最初のコメントを投稿しよう!