第1話

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 「くそっ。飛び道具じゃだめだ」  カイソンが叫んだ。  「やつの懐に飛び込んで接近戦に持ち込む。接近戦ならあの長いなぎなたは使えないはずだ」  「分かった。なら、俺は矢で援護する」  「頼む」  カイソンはウシワカに一礼すると、黒ずくめに向け突進した。  「化け物。覚悟せい!」  ウシワカはカイソンの頭越しに、さらに矢を放った。  黒ずくめはウシワカの矢をかわすため、やや体勢を崩した。  そこへ、カイソンの大刀が迫ってゆく。  「仕留めたっ」  カイソンが叫んだ瞬間、黒ずくめの左腕が動いていた。  カイソンの刃を左手の小刀で受けたのだ。  「うむむ」  カイソンは歯軋りした。  「くそっ。押せない」  カイソンの刀と黒ずくめの小刀は、刃を合わせたまま、止まった。  刀が大きい分カイソンが有利なはずだが、動かない。  「すげえ、力だ」  やがて、カイソンの刀が、じりじり押され始めた。  (カイソンは決して非力じゃない)  ウシワカは驚いた。  (俺との力比べなら十度やったら三度くらいはカイソンの勝ちだ。そのカイソンが全くかなわないのか)  ついに、均衡が破れた。  ギインと音を立て、小刀に押されたカイソンの大刀が宙に飛んだ。カイソンは勢いでもんどりうって倒れる。  黒ずくめは素早くカイソンの大刀を拾った。  カイソンは倒れた際どこか打ったらしく、立ち上がれない。  黒ずくめは背を向けた。  橋の欄干に手をかける。  「待てっ」  駆け寄って来たウシワカが、後ろから黒ずくめを抱きとめた。黒ずくめの動きが一瞬止まる。  「えっ。まさか…」  ウシワカは抱きとめた腕を離した。  黒ずくめは再度動きはじめると、懐を探った。  出てきたのは、鉤の付いた綱である。  黒ずくめは鉤を引っかけると欄干を昇り、綱を伝って川へするすると降りた。  橋の下の川に、小船が止めてあるのがウシワカの目に映った。  黒ずくめは素早く川岸に繋いであった縄を解く。  川の流れが速い。  小船は下流に向け動き出し、あっという間に彼方に消えた。  「くそっ。取り逃がしたか」  ウシワカは小船の消えた先を睨みながら、欄干をバンバンと拳で叩いた。 「どうしたんだよ。ウシワカ」  ようやく起き上がってきたカイソンがウシワカの背後から声をかけた。  「どうしたって?」  ウシワカが振り向いた。
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