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ウシワカがうなずいた。
「でも、どうやって手に入れたんだろう。このあばら家からして、金持ちには見えねえが」
「ああ。ネエさんの言い分によれば、この刀は買ったんじゃない。拾い集めたのさ」
「拾った? どっから?」
「俺の父ヨシトモが絡んだ保元の乱、平治の乱って二つの戦があったろ。平治の乱で父は敗れて亡くなったわけだが…。その大いくさの他にも、武士同士の小競り合いもある。そういったことで亡くなった武士の遺体から、夜陰に紛れて刀を引き剥がして来たってのがネエさんの言い分だ」
「うわあ」
カイソンは眼を覆った。
「気色わりいー。ネエさんがイッヒッヒッて笑いながら死体から刀を引き剥がすのが眼に浮かぶぜ」
カイソンはウシワカから眼を逸らし、口をもごもごさせた。
「お前の知り合いを疑うようでわりいんだけど…。あのネエさん、女にしてはいい体格してんじゃん。でかいし、肩幅なんかやたら広い。昨日の晩に見た黒ずくめに似てねえか?」
「そうだな」
ウシワカはうなずいた。
「それにだ。この場所。こっからならちょっと着替えて橋の上に出りゃあ、いくらでも刀狩りができるわな」
「ふふ」
ウシワカは笑った。
「俺も、お前と同じことを考えた。俺の感触が正しければ、黒ずくめは女だしな。だから、ここへ来たんだ」
「やっぱ、そうだったのか」
カイソンは右手こぶしで左手のひらを打った。
「粥、持って来たよ。なに、クロがどうかしたって?」
噂のネエさんが板切れに二つの粥を載せ、刀の部屋に入って来た。
カイソンは飛ぶように立ち上がった。
「い、いえ。何でも」
思い切り顔の前でぶんぶんと手を振る。
「あ、あのう。すぐ上の五条大橋で、このところ夜な夜な、黒ずくめの怪物が現れて武者から刀を奪い取るってご、ご存じですか」
「ああ。聞いてはいるよ。そうらしいね」
二人の前に粥の入った器を置きながら、ネエさんが言った。
「怖くないですか? そんな奴が出没して」
ネエさんは首を振った。
「いや。別に。夜は外出はしないし。万が一ここに侵入してきても、入口の落とし穴があるしね。心配してないよ」
「でも、気配って感じませんか? 現に昨晩、俺たち橋の上で黒ずくめと、橋の上で大立ち回りをしたんですよ」
ウシワカが口をはさんだ。
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