プロローグ

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「ーーシェラの命が尽きるまで、共に歩み、そして隣で笑ってやれ」 唱えるようにそう言って、その人は微笑んだ。 俺は穏やかに運命を受け入れるその姿を脳裏に焼き付ける。まるで『やっとこの時が来た』と、待ち侘びたように真紅の双眸は綴じられる。 瞬間で『敵わない』と錯覚する。 その人には最初から分かっていたのだろう。俺に流れる魔女の血脈。俺の辿る運命も、シェラ様が辿る運命も、己の辿る運命でさえ。 全て分かった上で、俺にもシェラ様にも仏頂面で悪態をついていたのだろう。 そういう人だ。 シルビア=ローダ=セン=ノースポール、時のノースポール国王陛下は大変食えない人なのだ。 国王陛下と王妃の騎士として、初めて対面した時からそう知っていた。だから、どうしても憎めなかった。 言葉にせずともシェラ様を愛していると、その人の紅玉の瞳が、饒舌に悪態を唱える声が、素直に抱き締めないその態度が言っていた。 「アンタに頼まれなくてもそうするさ、ルビィ様?」 俺は玉座で運命を待つその人に誓った。 「…………はははっ!お前の優しさは、ネモフィラの花のように純真であるのに、まるで正反対かのごとく分かりにくいものだな?アスターよ」 「アンタもなっ!!」 その人は意外そうに紅玉をパチクリさせ、俺の渾身の誓いを一蹴して、優しいと笑った。 お互いの大切なものを巡っては宿敵のハズなのに、その人の最期を受け入れるのは難儀かもしれない。 そんな強がりも、その人は黙って受け入れているのだろう。だから、本当に『敵わない』。 託されたものを背負い、俺は走る。 その人に託された言霊の本当の意味も理解せずに、その時はシェラ様を守りきることだけ考えていた。
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