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「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕は竜宮寺さんが言うほど僕は可愛くなんか――」
可愛くなんか……まぁ、ちょっとは可愛いかも知れないけど。高校に入ったら女装で学校に通うって決めてたから肌の手入れとか頑張ったし、具体的には生卵の白身だけを肌にすり込んだり生卵の白身だけを髪の毛にすり込んだり、フェイスアップローラーに生卵の白身を付けてコロコロしたり――卵の白身に僕の可愛さは裏打ちされている!
「ふふふ、君が協力してくれなければ私の家がどうなるか……わかっているのか!?」
彼女はニヤリと不敵に微笑んだ。
「ま、まさか……ッ! って、いやいや! なんで僕が脅されてるの!? 人質をもう一回よく考えて!」
まさか自分の家を人質に他人を脅す人が存在するなんて……うん! 世界は広いなぁ。
「君が協力してくれなければ、私の家がどうなるかわかっているのか?」
彼女はもう一度言った。
でもそれがさっきの冗談と同じ意味では無いことはすぐに分かった。
彼女の眼には今にも零れ落ちそうなほどの涙が溜められていた。
「あの……」
「お願いだ、私を助けてくれ」
竜宮寺さんは深く頭を下げた。
なんで彼女がいきなり真剣になったのかは分からない。いや、話を聞くかぎり最初から真剣に話すべき内容なんだけどね。
でも、こんなに真剣な人の頼みを無下にすることは僕にはできない。
「あぁもう! 女の子にここまでされたら断れるわけないじゃん!」
「じゃ、じゃあ!」
竜宮寺さんが嬉しそうに顔を上げた。
「でも、厳しくするからね! 絶対にうまくいく保証もないからね!」
「あぁ! それで充分だ。光が射した気分だよ! 高校に入るまではどうしようかと悩んでいたというのに!」
竜宮寺さんは勢いよく立ちあがり僕の手を握り締めた。笑顔の中に見える八重歯が可愛い。
「光か……それは僕も同じかな」
少なくとも女装がばれてからはこんなに楽しく人と話せたのは初めてだった。
「ふふ、しかしさっきの君、なかなかに男前だったぞ!」
腕を組み思い出すように彼女が言う。
「へ? なんのこと?」
「だって、「女の子にそこまでされたら断れない」だなんて、まるで物語の中の主人公みたいじゃないか!」
僕の言ったセリフのところだけをやけに格好付けて言う。彼女が言うと本当にかっこいいから余計バカにされてる気がする。
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