第1章 女装男子と嘘と彼女

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 母さんはいわゆるヤオイ系の小説家で、男子同士の恋愛が大層お好みだ。僕が女装が趣味だと告白した時にも怒るよりもニヤニヤする方が先だった。  でも今日は一応親として僕の学校生活がどうなるか心配してくれてたからよしとしよう。 「あらあら、心配しているのよぅ?」 「よだれを垂らしたまま言っても説得力というものは生まれないのですよ?」  藍がヤレヤレと嘆息気味に母さんに言った。 「でも本当に気をつけなきゃだめよ? 男の子だってバレちゃったらお母さん庇いきれないわ。せっかくお友達の理事長に頼み込んであげたんだから、うまくやってね」  僕は学校に女の子として入学している。僕が男だと知っているのは理事長だけだ。母さんが理事長と知り合いで頼んでくれたらしいけど……ヤオイ作家の頼みを聞き入れるしかない理事長(五十八)っていったいどんな性癖なんだ……あまり考えないことにしよう。 「おにぃ! べ、別に晩御飯食べたら藍の部屋に来てもいいんだからね!」 「なんでいきなりツンデレ風になったのかは知らないけど、行くよ」  僕が女装を始めてからずっと藍がメイクとかを教えてくれている。竜宮寺さんの相談を受けたのも実は藍の力を借りれば何とかなるかもと思ったからだ。  今日も女装講座をしてくれるつもりなのだろう。優しくていい妹だ。 「あらあら、二人とも仲良しねぇ~、お母さん嫉妬しちゃうわ」 「えへへ、おにぃきゃわいいから好き!」 「はいはい、母さんは仕事の〆切が近いんだから頑張ってください。ご飯食べられるのは母さんのおかげなんだから」 「あら、お母さんだけ仲間はずれなのね……兄妹(きょうだい)でやっちゃいけないことしちゃだめよ」  母さんはそう言ったけど、妹から女装の仕方を教わるのはやってもいいことだったのだろうか? はてさて疑問は増えるばかりだ。  ――夕食後。  風呂に入り終わった藍が、リビングでテレビを見てた僕に声をかける。 「じゃあおにぃ、待ってるよ!」  ウインクをして自分の部屋に向かう藍。階段を駆け上がる音で上機嫌なのが分かるのは家族の証拠だろうか。風呂上がりで桃色に染まったほっぺたが可愛らしさを際立てていた。 「さて、藍が待ってるし先にお風呂入っちゃうよ?」 「はいは~い! ごゆっくり~!」  食器を洗っていた母さんに断ってから脱衣所に向かう。  制服の上着を最初に脱いで、次にスカートを脱ぐ。
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