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そのまま髪を乾かす暇も無く玄関に向かう。ここで一つ心配になる。彼女は待っていてくれているかだ。僕だったら覗きが見つかった相手に呼び止められたら絶対に応じることは無いだろう。
不安を胸に抱きながら玄関のドアを押し開く。
「……いた」
拍子抜けして、つい声に出てしまう。彼女は玄関先にある小さな岩に腰かけていた。
「いた、とはなんだ! 君が呼び止めたのだろう!」
立ち上がり、仁王立ちでそう言う彼女。悪党というのはいつの時代も堂々としているものなのかな、なんて事が頭をよぎる。
「そ、そうだけど。じゃあそもそもなんで覗いていたのさ!」
「趣味だ!」
「警察に連絡してくるね!」
えーと警察の番号はなんだっけ、タウンページをペラペラ。
「ハッハッハ! 冗談だ。そんなに可愛らしい君は家でどんな生活をしているのかと思ってな。後を付けさせて頂いた」
え? ということは家での会話も全部聞かれてた? 僕が男だってバレた? というか風呂を覗かれてたんだからまずそれを考えるべきだった。
目の前が真っ白になって頭が全然回らない。
「しかし家の前まで来たのはいいが、風呂の窓くらいしか覗ける場所が無かったので待機していたのだが……いざ覗いてみると意外と見えないものだな。小説の表現で湯気で隠れて見えないとかはよくあるが、まさか自分が体験することになろうとは思わなかったよ! いや、実に惜しかった!」
指をパチンと鳴らして悔しがりながら彼女は言った。
「……え? じゃあ僕が家に帰ってからの会話とか、僕の全裸とかは見てないんだね?」
「うむ、会話は聞いてないが、上半身だけは湯気に隠れて無かったからな、見えた。それでその……言ってはいけないと思うのだが……言わせてくれ」
竜宮寺さんの黒くて大きな瞳が僕を憐みの目で見つめた。
僕は核心を突く言葉が来るのを覚悟した。
あぁ、これで僕の女装高校生活も終わりか、短かったなぁ。
「うん、分かってるから。言っていいよ」
最後のとどめは潔く受け止めよう。
「男のようにぺったんこなおっぱいだったな」
「うん、そう実は僕おと――ぉおおお!? って、えぇ!? 今何て言ったの!?」
「だから、がっかりなおっぱいだと」
「……うん分かった。もういいよ」
「情緒不安定な子だな君は」
知り合った初日にストーキングする様な人には言われたく無い。
でもよかった……バレて無かったんだ。
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