第1章 女装男子と嘘と彼女

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「あの華奢な体躯に綺麗な黒髪、そして淡く輝くピンク色の唇に真珠のように清らかで清純な目! あぁ地上に舞い降りた天使が俺の目の前にいる!」 「クッ! この世に生まれてよかったーッ! オレは今! 神に伝えたい! ありがとうと!!」 「ボ、ボキの大好きなメイコたんよりきゃわいいでござるよ! デュッ、デュフフフ!!」  え? なに僕? 僕の事? 僕やっぱり可愛い!? いやー、天使とか言われると照れちゃうなぁ。そしてグルメリポーターばりのコメントをくれた男子は放送部の資質があると思うんだ。  でも褒められるのは嬉しいけど、これで余計に注目されて、女装がバレちゃうかもしれない。それは困る。困るけど、もっと褒めて! いやでも駄目だ。ここは大人しくできるだけ目立たないように!  僕の中で二律背反の欲望が暴れて、何とか理性が勝利を収める。  唐突だけど、僕は可愛い物が好きだ。  だから自分のことも女装する事で可愛くした。  僕としては当然なことなんだけど、普通の人が理解してくれないことは分かっている。皆に嘘をつくことになってしまうのは少しだけ心が痛いけど、仕方がない。  周囲がざわめく中、最前列の女の子が立ちあがり、クラス全体を見える様に立って大きく口を開けた。  彼女の動作に気付いたのは多分僕一人だけだ。 「静かにしてくれっ!」  凛とした声が響き、教室の中は時間が止まったかの様な無音。  クラスメイト達は振り返り、声の主に注目した。  注目を集める彼女は不機嫌な表情で教室を見渡している。  一文字に結ばれたその唇は潤しく、大きく見開かれた黒色の瞳はこれでもかと意思を飛ばして、腰までさらりと伸びた深海を思わせるダークブルーの髪が一本一本意思を持っているかのように見えた。  こんな状況でも彼女は傲岸不遜とでも言い表わそうか、とにかく多くの視線をものともしない佇まいだ。 「あぁ、やってしまった」  彼女は一人ごとを言うように呟くと、額に手を当てた。しかしすぐに気を取り直した様子で先生の方を向き直る。 「すみませんでした、続きを進めてください」  彼女は先生にそう言って席に着く。  先生は「あ、あぁ」と生返事をし、周りの皆は圧倒され彼女に従って腰を下ろすしかなかった。  その後も自己紹介は続いたけど、僕の記憶に残ったのは彼女、竜宮寺(りゅうぐうじ) 花音(かおん)さんのものだけだった。 「竜宮寺さん!」
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