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「あの華奢な体躯に綺麗な黒髪、そして淡く輝くピンク色の唇に真珠のように清らかで清純な目! あぁ地上に舞い降りた天使が俺の目の前にいる!」
「クッ! この世に生まれてよかったーッ! オレは今! 神に伝えたい! ありがとうと!!」
「ボ、ボキの大好きなメイコたんよりきゃわいいでござるよ! デュッ、デュフフフ!!」
え? なに僕? 僕の事? 僕やっぱり可愛い!? いやー、天使とか言われると照れちゃうなぁ。そしてグルメリポーターばりのコメントをくれた男子は放送部の資質があると思うんだ。
でも褒められるのは嬉しいけど、これで余計に注目されて、女装がバレちゃうかもしれない。それは困る。困るけど、もっと褒めて! いやでも駄目だ。ここは大人しくできるだけ目立たないように!
僕の中で二律背反の欲望が暴れて、何とか理性が勝利を収める。
唐突だけど、僕は可愛い物が好きだ。
だから自分のことも女装する事で可愛くした。
僕としては当然なことなんだけど、普通の人が理解してくれないことは分かっている。皆に嘘をつくことになってしまうのは少しだけ心が痛いけど、仕方がない。
周囲がざわめく中、最前列の女の子が立ちあがり、クラス全体を見える様に立って大きく口を開けた。
彼女の動作に気付いたのは多分僕一人だけだ。
「静かにしてくれっ!」
凛とした声が響き、教室の中は時間が止まったかの様な無音。
クラスメイト達は振り返り、声の主に注目した。
注目を集める彼女は不機嫌な表情で教室を見渡している。
一文字に結ばれたその唇は潤しく、大きく見開かれた黒色の瞳はこれでもかと意思を飛ばして、腰までさらりと伸びた深海を思わせるダークブルーの髪が一本一本意思を持っているかのように見えた。
こんな状況でも彼女は傲岸不遜とでも言い表わそうか、とにかく多くの視線をものともしない佇まいだ。
「あぁ、やってしまった」
彼女は一人ごとを言うように呟くと、額に手を当てた。しかしすぐに気を取り直した様子で先生の方を向き直る。
「すみませんでした、続きを進めてください」
彼女は先生にそう言って席に着く。
先生は「あ、あぁ」と生返事をし、周りの皆は圧倒され彼女に従って腰を下ろすしかなかった。
その後も自己紹介は続いたけど、僕の記憶に残ったのは彼女、竜宮寺(りゅうぐうじ) 花音(かおん)さんのものだけだった。
「竜宮寺さん!」
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