第1章 女装男子と嘘と彼女

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 休み時間、どうしても彼女が気になった僕は勇気を振り絞って声をかけてみた。 「なんだ?」  彼女は振り向かずに返事をする。 「さっきはありがとう……助かったよ」  僕が頭を下げると僕の方を向き直る気配を感じる。彼女が僕のために行動してくれたかは分からないけど、結果として僕は彼女に助けられた。 「いや、考え事をしていたのに周りがうるさかったから、それだ――」  声に反応して下げた頭を上げると初めて目が合った。竜宮寺さんが僕を見て驚いたような表情をする。  口がポッカリ開いてますよ? 「――可愛いな、君は」  彼女はそう言うと開いた口を閉じ、僕のことを舐めまわすようにつま先から頭の上まで物色する。口説き文句としては率直過ぎると思うのだけど、僕は直球が嫌いじゃ無い。あ、でもそうじゃないんだ。今の僕は女の子、彼女に口説かれるはずもない。  彼女はしばらく僕を鑑賞した後、何かを考えるようにして顎に手を置いた。  女装がバレてしまうかも知れないと思うと僕の胸中は穏やかじゃない。彼女が何を考えてるかは分からないけど、今はこの場を離れる事が重要に思えた。 「可愛くないよ! ご、ごめんね、話し掛けちゃって」  竜宮寺さんの視線を振り切って、そそくさと自分の席に戻る。  席に戻ると何人かの男子が僕の周りに群がってきた。まるでハイエナが獲物を見つけたみたいだ。僕のことを食べようとか考えてるのならお生憎様。僕は男に興味は無いんだ。  まぁ、女の子相手にも恋愛感情を持ったことが無いけどさ。 「いやー、竜宮寺さんだっけ? 怖いよねー」 「顔が良くっても性格があれじゃーな」 「それに比べて高城たんはきゃわわで最高でゲス!」  必死に僕の機嫌を伺うその様子は、食品サンプルを見て舌舐めずりをする様なものだ。  ……男って本当にバカだよなぁ。  ――昼休み。  前の方の席から竜宮寺さんが歩いてくる。歩き姿さえもどこか凛としていて格好良い。  つい目で追っていると、彼女は僕の前で立ち止まった。 「夕貴、昼食を一緒に食べないか?」  ニッコリと笑顔を作った彼女はまるで女優が演技をするように大袈裟に手を差し出してきた。  僕は僕で自分の名前が彼女に覚えられていた事といきなり下の名前で呼ばれた事に二重で驚いてしまう。彼女から見たら僕の反応も演技がかってしまっているのでは? 「う、うん。一緒に食べようか!」
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