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気まずさは増すばかりで、なぜ彼女は僕を誘ったのだろうとさえ思えてくる。
「私は――」
僕の思考に答えるかのように竜宮寺さんが話し始めた。
「――可愛くなりたいんだ! 君のように、可愛らしい女の子に私はなりたい!」
堰を切った様に彼女は勢いよく話し始めた。乱暴に置かれたからの弁当箱がカランと音を立てる。
「へ?」
僕は彼女の言った言葉の意味がうまく飲み込めないでいた。彼女は今なんて言ったんだ? 僕の耳がおかしく無ければ、可愛くなりたいって聞こえたんだけど……。
「可愛くなりたいんだ!」
真剣な竜宮寺さんには悪いけど、僕は心のどこかで女装がバレていなかったことに胸を撫で下ろしていた。
でもそれよりも、今は目の前に迫っている彼女に返事をしないと。
「竜宮寺さんは充分、び、美人だよ!」
あぁ、答えになっていないのが自分でも分かる。
「そう! 美人ではある。しかし、美人ではだめなんだ!」
あっさり肯定した上に否定した!?
「頼む夕貴! 私に、可愛くなるコツを教えてくれーッ!」
肩を掴まれて前後にブンブンと揺すられる。
あぁ竜宮寺さん君は力でも僕を軽く超えているよ。脳のお味噌がシェイクされて目の前が真っ暗になっていく。
あぁそう言えば昨日は女装して登校する緊張で一睡もできなかったっけ、意識が――飛ぶ……。
「夕貴!? 夕貴ーーーッ!」
薄れる意識の中で最後に聞こえたのは僕の異変に気付いた竜宮寺さんの心配そうな声だった。
僕はとにかく可愛いものが好きで、小さい頃から戦隊物より美少女戦士、変身ベルトよりぬいぐるみと女の子みたいな趣味だった。
親は大きくなれば普通になると思っていたみたいだけど、そんな予想を裏切って僕は可愛い物が好きなまま中学生になっていた。
「高城! お前女装が趣味ってホントかよー!?」
山ちゃんが言った。
「えっ!? そうなの?」
「いやいや、冗談でしょー」
山ちゃんの声に反応した何人かが僕の周りに集まって口々に何かを漏らす。
「そんなことないよー、なに言ってんの? 山ちゃん」
僕はすぐに否定する。内心は秘密がバレたのかと不安で仕方がない。
本当は女装はしているけどそれは僕が可愛い物が好きだからで、女の子になりたいと思ったことは一度も無い。
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